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トロントの各界で活躍する著名人にインタビュー

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松本 薫
Kaoru Matsumoto
大蔵流狂言師
9月16日、ヨーク大学演劇科の大学院生を対象に、大蔵流狂言師、松本薫氏によるワークショップが行われた。国内外で公演やレクチャーを精力的に行う松本氏に、伝統芸『狂言』を語ってもらった。

―日本人以外の生徒さんに狂言を教えるのは大変ですか?

「実は、日本人の生徒さんに対する時と全く同じように教えているんです。教える時には、自分もきっちりやらないと生徒さんもいい加減になってしまいますし、知識も中途半端なものではダメですよね。だから人に教えることで自分も学んでいます」

―狂言の面白さとはどういう点にあるのでしょうか?

「狂言では、一般市民を主人公にして、日常に起こる些細なエピソードを作品にしています。同じ事の繰り返しでマンネリになりがちな日常生活の中に、実は人生の一番面白い部分がある。その面白い部分を見直すことができるのが狂言なんだな、という気がしています」

―現代的なエピソードを狂言にアレンジした『スーパー狂言』などにも出演されていますが、そうした新しい狂言のかたちについてはどうお考えですか?

「台本の好き嫌いはあります。面白いかどうか、わざわざ狂言のテクニックを使って演じる必要があるのか、などという事は考えますね。ただ狂言も演劇の一種ですから、新しい作品ができるのはいいことです」


―3年前にフランスで公演して話題になった『Monnaie De Singes(猿のお金)』について教えてください。

「フランスのコメディア・デラルテの道化役アルルカン、中国の京劇の孫悟空、日本の狂言の太郎冠者(いずれも伝統的な演劇の登場人物)という、文化も言葉も違う3人が、何の予備知識もなくぶつかり合ったらどうなるかというのを作品にしました。例えばフランス語で『ジュマペール、アルルカン』と自己紹介しても、その一文のどの部分が名前なのか相手には解らない。そういうやりとりを延々と続けます(笑)」

―海外公演でのお客さんの反応はどうですか?
「海外での反応はとても良いですね。狂言は要所要所にパントマイム的な演技や擬音が入ります。例えば、のこぎりで木を切る時にはこうして(のこぎりを挽くジェスチャーをして)『ズカズカズカズカ、ズッカリ』と言うんですが、こういうのは台詞が解らなくても理解できるわけです。公演前に簡単なあらすじの説明をすれば、字幕などは必要ありません」

―今後やりたい事は何ですか?
「まず、古典的な表現のレパートリーに磨きをかけたいです。それから、日本独自の演劇である『狂言』と、他の国独自の演劇の違いを探りつつ、新しい作品をつくっていきたいですね」




演劇の世界を目指す学生達の食い入るような視線の中、ユーモアを交えつつ丁寧に狂言の指導をする松本氏。その場にいた全員が次第に『狂言ワールド』に惹きこまれていくのが、手に取るように感じられた。狂言師、松本薫の職人芸は、全く異なる文化を持つ人々にも確実に伝わっている。

インタビュー/後藤美穂

松本 薫 Kaoru Matsumoto
大蔵流狂言師。十二世、茂山千五郎(現四世、千作)の芸に惚れ、74年、立命館大学在学中に入門。23歳で狂言『瓜盗人』のアド(主役シテの相手役)として初舞台に立つ。以来、その『笑い顔』をトレードマークに、同門の網谷正美氏、丸石やすし氏と共に結成した『三笑会』の公演や、海外公演を数多くこなすなど、幅広い活動をしている。1951年生まれ。

狂言とは
悲劇的な歌舞劇である『能』に対し、笑いの要素をふんだんに含んだセリフ劇が『狂言』。約600年の歴史のなかで洗練された笑いの芸術、狂言は、型を踏襲した古典ながら気の利いた台詞も多く、その笑いは現代にも通ずる。
狂言の主な登場人物
太郎冠者:おっちょこちょいでお人好し。
明るくいたずら好きで、ユーモア溢れる人物。
大  名:尊大だがあまり教養のない人物が風刺されている。
本当は気弱な好人物。
山伏・僧侶:無学なくせに知識をひけらかし、斜に構えているようで実は物欲のかたまり。
狂言の流派
鷺流(さぎりゅう)が江戸時代に廃絶し、現在は大蔵流、和泉流の二流派のみ。各流派は、宗家の他にそれぞれの家を持つ。松本薫氏の所属する茂山千五郎家の狂言は、誰にでも解り易く、親しみやすいとの定評がある。
茂山狂言会サイト:www.soja.gr.jp

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