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トロントの各界で活躍する著名人にインタビュー

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江國香織 Ekuni Kaori
小説家
美しい日本語で描く、ユニークかつ繊細な世界が高く評価され、若者や女性を中心に絶大な人気を誇る作家、江國香織。映画化もされた人気作『きらきらひかる』の英訳版が出版され、「International Festival of Authors」への参加のためにトロントを訪れていた江國氏にお話を伺った。

――小説家になろうと思ったきっかけは何ですか?
「きっかけというのは、特にないです。書くことは昔から好きで、初めて小説を書いたのは小学校1年生の時でした。父と母の出会いから始まる家族小説です。
でも24歳まではずっと他の職業を探していて、子供向けの英会話学校で教えていたこともあるんですけど、子供に型どおり教えるのが苦手でした。例えば『好きな色は何ですか?』という質問に、赤とか青とか決められた答えを英語で言うというレッスンで、ある子供がしばらく考え込んだ後に『水色って言いたい』って言ったんです。この一言には胸を打たれて、『この中から選んで言いなさい』って言えなかったですね」

――小説家になる前に1年間アメリカに留学されていたそうですが、当時の思い出深いエピソードを教えてください

「いっぱいあります。中でも印象的なのは、すごく魅力的な先生に出会ったことですね。興味が似ていたせいか、英語力も大して無い私が、彼とは楽しく色々な話ができたんです。
私は当時23歳で、その頃から『小説家になるかもしれない』と言っていたんです。『遠い夢だけど、もしビッグヒットになれば英語で読めるね』って話していました。彼は弁護士の仕事をする傍ら英語教師をしていたんですが、『僕は弁護士を辞めて教師になるかもしれない』と言っていました。実際彼は弁護士を辞めて教師になりました。そして私も小説を書いているなんて、何となく不思議な感じがします。
彼とは今でもたまに連絡を取っていますが、『きらきらひかる』の英語版が出版されたことについてはまだ言っていません。あの作品は、私の中では古いので、ちょっと恥ずかしいんです。最近の作品が英訳されないかなと思っています」

――ご自分の小説が英訳されることに関して違和感はありませんでしたか?

「私は英語の概念が好きで、自分の文章にも冠詞や主語と目的語をたくさん入れるせいか、ギャップはそんなに感じなかったです。むしろ映像になる時の方が全く別物という感じですね」

――『きらきらひかる』を始め、多くの恋愛小説を書かれていますが、ご自身の恋愛体験、男性観を教えてください。

「ずっと女子高だったせいか恋愛に関しては奥手で、初めてデートしたのは19歳の時でした。雨の日に渋谷の東急ハンズで待ち合わせをして、傘が2本あったのに『傘は1つで大丈夫』って言われてすごく嬉しかったのを覚えています。
20歳過ぎてからは男の人が面白くてしょうがなくなりましたね。女性とは言語体系が違う感じがします。『東京タワー』という小説を書くために高校生をリサーチしようと思って、電車に乗ったことがあるんです。車内の高校生の男の子2人組を見ていたら、ずっと無言で最後に一言だけ、『腹減ったな』『そうだな』っていう会話を交わしたんです。男の人の会話って、インフォメーションは多いけどストーリーはあまりないですよね。女の子はストーリーばかりですけど」

――ご自分で一番気に入っているのはどの作品ですか?

「『ホテルカクタス』です。イラストのイメージから、3階建てのアパートの話だと思いました。登場人物については、夜お酒を飲んでいる時に、(アパートの住人として)きゅうりと数字の2がまず決まったんですね。数字の2は、便利で安全で人が良い感じがして、前から好感を持っていたんです。でもその分ちょっと哀愁があったりして(笑)。それとは対照的な元気の良いキャラがきゅうりです。きゅうりって特に鮮度が大事じゃないですか。それであと足りないのは、大人っぽい性格の分別のあるキャラだということで、帽子が決まりました。3人の友情のお話です」

――普段はどのような感じで過ごされていますか?

「毎日8時には起きて犬を庭に出して、それから2時間お風呂に入ります。犬の散歩をしてから朝食、コーヒー、大量の果物を摂って、午後は7時、8時頃まで仕事をします。夜は飲みに出掛けて、午前2時とかまで飲んでいますね(笑)。もちろん、締め切りが近かったり遊び過ぎたりした時は、夜中に書いたりもします」

――アルコールはかなり飲まれるほうですか?

「お酒は大好きです。カナダに来てびっくりしたのが、ビールもウイスキーもアメリカと全然違うということ。精力的に色々試しています。でも、こっちの人はあまり飲まないのかな。昨日もランチの席で当然のように地ビールを頼んだら、周りはみんなお茶でした(笑)」

――今後、挑戦してみたいことは何ですか?

「目標は(童話作家、翻訳家の)石井桃子さんです。彼女は優れた英米の児童文学を、非常に豊かな日本語で訳すことができる人です。
私は実際に子供向けに本を書いたことは一度もないんです。絵本も出していますが、読者は高校生以上がメインです。だから、いつか本当の子供向けの本を書いてみたいですね」

インタビュー/後藤美穂
江國香織 【Kaori Ekuni】
1964年東京生まれ。目白学園女子短期大学国文科を卒業した後、出版社勤務を経て、米国デラウェア大学に1年間留学。その後、恋愛小説から童話的作品、エッセイや絵本の翻訳、詩集まで、幅広い作品を手掛け、数々の賞を受賞。美しい日本語で独自の世界を描いた、感性豊かで洗練された作風が、多くの読者の支持を得ている。父はエッセイストの江國滋氏。

■過去の主な受賞経歴
『草之丞の話』
毎日新聞社「小さな童話」大賞(87年)
『409ラドクリフ』
第1回フェミナ賞(89年)
『こうばしい日々』
産経児童出版文化賞(91年)
坪田譲治文学賞(92年)
『きらきらひかる』
紫式部文学賞(92年)
『ぼくの小鳥ちゃん』
路傍の石文学賞(98年)
『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』山本周五郎賞(02年)

■映画化作品
『きらきらひかる』(92年公開)
出演:薬師丸ひろ子、豊川悦司、筒井道隆
『落下する夕方』(98年公開)
出演:原田知世、渡部篤郎、菅野美穂
『冷静と情熱のあいだ』
(辻仁成と共著 01年公開)
出演:竹野内豊、ケリー・チャン、篠原涼子

『Twinkle Twinkle』
Vertical, Inc. 2003/5月発売
アル中の笑子と、ホモで恋人のいる睦月は、互いの全てを許し合って結婚した、はずだったのだが…。
映画化もされた人気作『きらきらひかる』の英訳版。心地よい江国香織の世界が凝縮されたこの純度100%の恋愛小説は、疲れたあなたの心を癒してくれるはず。英訳はシモカワ・エミ。
*日本語版『きらきらひかる』は新潮社より出版されています。
『あたしの一生
― 猫のダルシーの物語』
(翻訳)飛鳥新社
人間と暮らす一匹の猫の生涯を淡々と一人称で描写した、ディー・レディー著の愛の物語。原作の素晴らしさはもちろん、翻訳を手掛けた江國香織の日本語センスが光る作品。
『ホテルカクタス』
ビリケン出版
ホテルカクタスという名前の古いアパートを舞台に、きゅうり、帽子、数字の2という3人の住人が友情を育んでゆく物語。独自の世界観で描く、おかしくて哀しい大人の童話。

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