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コラムバックナンバー 2003年特集記事

017「僕と彼女が走る道(前編)」

photo僕は彼女が大嫌いだった。彼女と出会ったのは僕がカナダに来てまだ1週間と経っていない、春が終わりを告げている頃であった。極貧状態でこの国に降り立った僕にどうしても必要だったものが、彼女だった。賑やかな繁華街から少し外れた所に在る、見るからに小汚く信用の置けそうにない店を訪れ、ある女性を探していると店員に言うと、彼は僕を店の奥へと連れて行き、裏庭へと案内した。そこにはまるで戦火を逃れ切れなかった人達の死体のように、原型を留めていない状態で数々の死骸が実に乱雑に山積みにされていた。僕の予算が$40であることを彼に伝えると、「その予算なら今はコイツしか居ないな」と、手の皮膚が剥がれかかった、片足のない一人の女性をゴミ溜めのような死骸の山から引っ張り出してきた。手の皮膚は対した問題で無いにしても、片足だけとなると、いくら$40とは言え意味が無い。彼は心配するなと、別の屍から彼女のによく似た少し細い足をもぎ取り、彼女にはめ込んだ。そしてつい5分前までは死体としか言い様が無かった彼女は、ものの見事に蘇った。彼女の名前は茶 輪子(注1)。僕は彼女を”チャリ“と呼んだ。こちらでは”山 茶利恵(注2)“が人気があるようで、人々は山道など一切無いのに、田舎の中学校の校則を忠実に守る優等生のように、ヘルメットを被ってまで乗り回している。

特別日本の女性を好む訳では無いが、流石熟女と唸ってしまいそうな程、丁度良い中肉中背具合で、腰を掛けると過剰に気持ちが良く、全てに気を配り前向きに受け止めてくれる”母 茶利子(注3)“もさる事ながら、「軽・平・速」という妙な3段階表示の(「軽」は体への負担、「平」は道の状況、「速」は単純に速度という、実際で考えれば有り得ない3段活用である)変則機能の付いた、手が綺麗に真直ぐな”姉 茶利美(注4)“が最もタイプの僕からすれば、12段階変則付きで、僕の重荷を受け止めるカゴなど何処にもなく、(プロレス技のような

”ドロップハンドル“という名で呼ばれる)味気の無い壁掛けフック形の両手の彼女(本名…競 輪子)を好きになる理由など何処にもなかった。然し、茶利子に実によく似た女性(無カゴ)が$80で輪子2人分に相当するとなると、「妥協+我慢=金の節約」という公式が染み付いている僕からすれば、足で漕いで進むという過程は同じなのだからと自分に言い聞かせるしかなかった。

僕は兎に角、雨や雪の日に背中を泥まみれに汚されても、路面電車の線路に彼女の前足が奇麗に挟まり、忙しい車道に芸術的に転がり、僕が”自転者“になったりしても、何処へ行くのにも彼女と一緒に行った。それは彼女を必死に愛そうとしている姿に見えたであろう。そんな中、彼女の後ろ足が破裂してしまい、2人でお出掛け出来ない日があった。その時、僕の心の中に彼女への恋心が芽生え始めたような気がした。そしてある日、その恋心が急速に走り出し、誰も止めることの出来ないものになりそうな気配を感じていると、彼女も僕に恋に堕ち始めたということなのか、2人の前に赤信号、外の気温は体感マイナス40℃、ブレーキ凍って、「止まれへ〜ん!」|中編へ続く|

注1…ちゃ・りんこ。注2…マウンテンバイク。注3…ママ・チャリ子「前カゴ・泥除け付」。注4…アネ・チャリ美。

最終更新日 : [03/03]
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