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コラムバックナンバー 2003年特集記事

019「僕と彼女が走れない(後編)」

photo金の掛かる女だが、折角手に入れた女性を簡単に手放す訳にはいかない僕が、彼女(茶 輪子)に必ずしていたことがある。それは、彼女をある場所に縛り付け鍵を掛け、勝手に何処へも行かせないようにする、謂わば「青空監禁」(注1)である。

カナダは世界一、彼女達の拉致事件(注2)が多い国なのか、人々は彼女達に、日本では『嘔吐 倍子』(注3)を監禁するときぐらいにしか用いない、U字ロックと呼ばれる鉄製の頑丈な鍵を掛け、拉致被害を防いでいる。

然し金銭に余裕の無い僕は、ある金物屋にある$2の安い鍵で済ませようとした。それは値段だけでなく見掛けも安かったが、ユダヤ系の店で買っただけあり、2回の使用で壊れてしまった。

仕方無く僕は$7のU字ロックをインド人経営の店で買うことにした。流石に今度は頑丈なだけあり、5ヶ月で壊れた。

「今度こそは一生モノを…」と思い南米人経営の店で購入した$9の鍵は、前の物より高いだけあり物凄く頑丈で、何の問題も無く2ヶ月で壊れた。しかもそれは、22時、外はマイナス15℃、彼女を監禁している状態で起こった。鍵全体が凍り、鍵穴が潰れ、開けることが出来なくなったのだ。それでも小一時間に及ぶ「叩き・蹴り・(ライターでの)焙り」等の様々な攻撃で何とか破壊し、2人で帰れるようにした。

次の日、僕はカナダ人経営の店で史上最高に頑丈な鍵を$14で買い、大雪の中、友人宅へ輪子と向かった。友人との夕食を済ませ、玄関先で僕を良い子で待っていてくれた輪子の傍へ行き「待たせてごめんな」と謝りながら、ポケットにしまった鍵を出そうと試みた。

然し、幾らポケットをまさぐっても鍵の感触を味わえない。最強に丈夫なモノだけに今度は絶対壊せない上、合鍵とを分けておかなかった為、見付けなければその場所に「輪子を永久青空監禁」ということになる。

僕は雪が深々と降り続く中、必死で鞄や服のポケットや友人宅を隈なく何度も探しまくった。友人の懐中電灯で彼女の周辺を照らせども、見えるものは白雪に残された自分の足跡だけ、やすし師匠がメガネを探しているのとは訳が違う。

視力には何の問題も無い僕だが、散歩中に突然頭にタライが落ちてきて、その衝撃で道端に落ちたコンタクトを必死で探しているような気分で、外灯と懐中電灯の明かりを頼りに、積もった雪を溶かすぐらいに目を凝らし、友人と一緒に雪を掻き分け死に物狂いで探しまくった。

目の前の輪子に触れることは出来ても、連れて帰ることは出来ない。刑務所の面会のような暗い雰囲気に陥り、僕は自分の愚かさを思い知った。両手を繋ぎ一緒に走った街の風景が次々と脳裏に甦る。彼女を守る為に買ったものが、逆に彼女を苦しめることになるとは…僕の頬を濡らすのが雪なのか涙なのか…。

時の経過を一切忘れ一心不乱に探したが、苦労の甲斐無く結局鍵は見付からなかった。別れは突然やってくる。輪子の「何処に行くの?」と云う声を掻き消すように雪は延々降り続いた。僕が歩みを進める度、輪子が遠く小さくなっていくのが例えようの無い程悲しかった。輪子との出会いの切っ掛けが「交通費の節約」だった僕は、矛盾と一緒に路面電車に乗り込んだ。
「Dear輪子 ホントにごめん さようなら」

注1…路上駐輪 注2…自転車の盗難 注3…オートバイ子

最終更新日 : [04/08]
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