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59「本人の知らない目的地」

photoカナダの空港に初めて降り立った時の私はまだ、機内で気付いた『地球の歩き方不所持』というミス以上の失態を自分が犯していることを知る由もなかった。
その頃サマータイムに入っていた為、若干日は長かったが、流石に9時ともなれば辺りは当然の如く暗くなってきていた。それでもこれからの目的地も何も決めていなかった私は取り敢えず、幾多の若手芸人の気持ちを代弁するかのように”ダウンタウンを目指せ!“と空港警備員にダウンタウンへの行き方を訊いた。
すると、警備員は「ダウンタウンの何処に行きたいんだ?」と質問に質問で返してきた。自分が誤ってダウンタウンのようになる為への生き方を訊いてしまったのかと思ってしまう程、そのときは全く訳が分からなかった彼の質問返しに苛立ち、多少声を荒げて「何処って、ダウンタウンに行きたいの!」と彼の質問を無視した答えを浴びせると、向こうも負けじと「だから、ダウンタウンの何処に行きたいんだ?」と物凄い形相で返して来た。今思えば、彼はとても優しく親切な人物で心から私の力になりたいと思ってくれていたに違いない。だからこそ、必死になり、私が彼のアドバイス通りに目的地に行けるように、何処に行こうとしているのかを詳しく知りたかったのだ。
然し、その時の私は自分がただ闇雲に「ダウンタウンに行きたい!」と言っているのではなく、ダウンタウン自体がそれだけで充分目的地であり、成田空港で「渋谷に行きたい!」と言っているような感覚で、それに対し「渋谷の何処に行きたいんだ?」と訊かれても、”そこは放っといてくれ!“と大きなお世話的な鬱陶しさを純粋に感じるように、「ダウンタウンの何処に行こうと俺の勝手やないか!」という怒りに似た気持ちしか抱けなかった。そして、最終的に感情トップギア状態で「兎に角、ダウンタウンに行きたいねん!」と、声が上ずるのも気にせず訴え掛けると、外国人特有の両腕を直角に曲げた状態で両掌を天に向け、脇を閉めながら両肩をクイッと上に上げ、首をすくめるような格好で”何てこったい!“とでも言うかのように「クレイジー!」と声小さく発し、一番安い方法で行くにはバスに乗り、キプリングという駅で地下鉄に乗り換えるんだとだけ教えてくれた。
其の時カナダの現金をたった2ドルしか所持していなかった私はバスに乗る為の不足分の小銭を貰えないか彼に訊いてみたが、”NO!“の一言で簡単に断られ、仕方なく空港の売店で手持ちのトラベラーズチェックでトロントのガイドブックを購入し、「お釣りは全種類の硬貨と紙幣を織り交ぜて下さい」と雰囲気先行の崩れ文法満開英語で注文し、結構高額な釣銭を手にするも、バス代小銭を最も大切に握り締め、何とかバスに乗り込んだ。バス代を払っただけで、そのまま地下鉄まで乗れるとは思ってなかった私は、キプリング駅で必死に券売機を探すも見付からず、人の流れに従い階段を下りて行くと、ホームに地下鉄が待っていた。キセルをしているような妙な罪悪感を抱えながら、そのまま電車に乗り込み、走る電車の中で地下鉄路線図を眺め、私は叫んだ。  
「俺、何処で降りたらええの?」 
つづく

nob morley
先日、新喜劇の座員で元ぴのっきをの清水キョウイチ郎さんが42歳という若さで亡くなられました。この場を借りて心からのご冥福をお祈りします。

最終更新日 : [02/22]
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