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60「本人が知らない目的地」

photo初めて乗り込んだカナダの地下鉄の車内で、私は路線図を見つめ、自分が降りる駅を探しに探した。然し、一向に見付からない。大阪のJR環状線で『新宿』を探しているとかならまだ、見付からない原因を「ここ大阪やん!」という安易な突っ込みで簡単に解決出来るのだが、この時の私は、太平洋のど真ん中でゴムボートを浮かべて太陽の昇る方角から何とか東西南北だけを把握し、取り敢えず何処かの大陸なりを目指し必死に漕いでいるようなもので、自分が目指しているものが大まかに『大陸』というだけで、何大陸かは全く知り得ておらず、何なら「別に大陸で無くても島でもいい。この漂流した状態から脱しさえ出来ればそれでいい」という、妙に開き直った前向きな気持ちだけで、漠然としまくった目的地こそ在れ、その目的地の名前も何も当然のこと一切知らず、周りの景色に全く変化が無い故、自分が如何程目的地に近付いたのかも分からず、ただ闇雲に大海原を漕ぎ進もうとしているのに似ていて、目的地が見付からない原因が分かっていても、解決策が見当たらなかった。そう、私は自分が降りるべき駅自体を知らなかったのである。
そして私はほんの30分前に空港警備員が幾度となく「ダウンタウンの何処に行きたいのだ?」と訊いてきた理由を身を持って理解したのである。”地下鉄が走っている=都会“という安っぽい方程式を掲げ、それを海外の未知の土地に宛がおうとした自分に多大なる後悔をした。地下鉄に乗りさえすれば、何処で降りようと大概都会であろうという推測が所々で窓の外に見える田舎丸出しの何も無い景色で完全に憶測だったと分かり、全てが蛇足であったと思い知る程の不測の事態に追い込まれ、そのまま異国の地で消息を絶ってしまいそうになった。
それでも、長渕剛調に云えば、実に”ケツの座りの悪い“地下鉄にいつまでも乗っている訳にいかず、自分の持っている荷物が”薄っぺらのボストンバッグ“とは比較にならない程重い荷物であったにしろ、”北へ北へ“向かっている感覚を背負いながら東へ東へ向かっていた。”ざらついた苦い砂を噛む“想いで路線図を見ると、東西を走る線とU字に南北を走る線の二つが交わっている。特に今まで感覚だけで生きてきた訳では無いが『この交点の駅がド田舎である筈が無い!』という直感が間違っている気がしなかった。そして、その感覚が次なる”このU字の一番底に当たる駅から北へ都会が広がっているな“という直感を生み、これが何故か瞬く間に確信に変わり、そのまま勢い付いて『好きな名前の駅で降りよう!』というタイトルコールと共に実に楽しそうな企画を独りで始めてしまった。
企画は”この町のKINGを目指そう!“という安易な発想から『KING』駅に決まったところで終了となり、重い荷物を引き摺りやっと決まった目的地に心躍らせ地下鉄を乗り換えKING駅で降り、完全に日が暮れ夜も深まった状態の地上に出た。
周囲は確かに立ち並ぶ高層ビルからして都会な雰囲気はあったが、妙な切なさが身体の中を吹き抜けた瞬間、私は答えの分かっている問いを何故か意味も無く叫んだ。
「ここ何処?」
(つづく)

nob morley
吉本新喜劇で活躍中のお笑い芸人。新年の抱負は、『ビッツある限りコラムを書いていく』こと。読者の皆さん、新しい年もノブモーリーをよろしく。

最終更新日 : [02/22]
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