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66「許すホステス」

photo基本人見知りの激しい私は、昼間忙しく流行っている食堂などで食事をする時に座席の都合上仕方無く”相席“を余儀なくされる場合、たとえその店の名物を食べていても美味しく感じなくなる。目前の他人が同じものを食べているという絵が、牛舎で向かい合わせに並べられた牛が同じ餌を食べているのを想像させ、唯一の常時二足歩行哺乳類である人間としての尊厳を損なわれた感じがするからだ。
それでも、相席になった人間が、出勤前の艶っぽい綺麗な女性ともなれば、尊厳どうこうでなく、単に雄としての本能が、彼女が何を注文するかを気にさせ、自分と同じ物を頼んだ瞬間、「これは運命だ!」とまで言ってしまいたくさせ、割箸を割ろうとするしなやかでか細い水割りを作り慣れた手を握り、「この出会いを一生のものにしよう!」と強引に手を引き寄せ、ぐらついた身体をすかさず両腕でしっかりと抱き、混み合う店内で二人抱き締め合い熱い口づけを交わし、注文品に一切手を付けず、何故か頭の中で急に流れ出したある曲を勢いに彼女の手を離すことなく走り出す、そして彼女の目に涙、都会の真ん中にも関わらず、演出的に霧に包まれた街中を全速力で二人手を繋いで宛も無く走り、店の店員が御代を求めて追い駆ける中、駆け落ちカップルよろしく霧の中へと消えて行くという事細かい妄想を勝手に暴走させる。
然し現実は、彼女がこの後出勤する店を知りたいという欲求に全身を包まれ、チラ見ながらもその女性の食べ方に注目し、鼻歌で♪愛しさと切なさと心強さと♪を歌い、少しにやけながら同じものを同じテーブルで新人発掘に余念の無い小室哲哉気分で食べ、他の客に完全に危ない人物だと思われるのが関の山である。
―自分の部屋が他人の部屋でもある相部屋。ユースホステルでは当たり前のこのスタイルは、自分の席が他人の席でもある相席に掛ける想ひ以上の感情を渦巻かせ、他人という項目に女性が含まれることを願いながらの世俗的な欲望に身を委ねさせる。然し、ドアという名の蓋を開ければ、岩礁などに固着するフジツボのように、身体中の至る所に頑強にくっ付いていた夢や希望が、古い吸盤のようにパラパラと剥がれ落ちていく程、私が路上で「テロリストや!」と指を指して叫べば瞬く間に通行人に取り押さえられそうな怪しい風体の信用度ゼロなむさ苦しい男ばかりで女性は全く居なかった。
それでも『人に交わるには信を以ってすべし、おのれ人を信じ、人またおのれを信ず、人々相信じて初めて独立自尊を実にするを得べし』という福沢諭吉先生の言葉を胸に、自分が相手を信頼してこそ、相手もまた自分を信頼してくれるのだと、自ら「信念」を持って動き出し、相部屋になった男達と強い信頼関係を結んで行こう…なんて一切思えず、自分の殻に閉じ篭るように、相席妄想中で一緒になった、普段は枕営業を一切しないホステスに何とか許しを乞い、唯一の許可としてひざ枕をして貰っているような心地をイメージしながら、自分の最重要な鞄を絶対に盗まれぬよう、それを枕にして寝苦しさとえげつなさと心細さを感じながら眠りへと向かった。

nob morley
吉本新喜劇で活躍中のお笑い芸人。自宅のある京都から吉本(大阪)まで片道1時間半。Time is Moneyというが、タイムはあってもマネーが無い。

最終更新日 : [03/27]
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