bits lounge
bitsブログ、トロント在住ライターのコラム集、トロントリアルライフ、体験談etc

ホーム > ブログトップ > 68「持ち物買いの銭失い」
SHOP ショップ
コラムバックナンバー 2003年特集記事 お問い合わせ

当コンテンツに関するお問い合わせはこちら
■お気軽にお問い合わせください。
コラムに関するご意見・ご感想をお待ちしております。
■随時、ライター募集中!
当コンテンツでは、ライターを目指している方のコラムを積極的に採用していきますので、ご応募お待ちしております。
■PRの場をご提供
ビジネスプロモーションの一貫としてのスペースも提供しています。

これまでに執筆したライターのご紹介!
'05年バックナンバー
'04年ブログ集
'03年コラム・特集記事



68「持ち物買いの銭失い」

photo絶望的な空間の共有に精神的な限界を感じた私は自分の荷物を部屋に設置してあるコインロッカーに収め、取り敢えず外出を試みる。然し、自分が手に持つロッカーの鍵が唯一の物である気が全くしない。部屋に自分が不在である間に、長老が長期間のホステル生活の中で作った全ロッカーの合鍵で簡単に開け、金目の物を盗み出したりしているのではないかという疑いが常に背中に負ぶさり、その重みが計り知れない不安を生んでいた。そしてそれは、私の「外出」を一歩ホステルの外に出て、普通に車が排気ガスを吐き出しながら往来する道路を目の前に、部屋の中よりかは幾分か新鮮な空気であると信じ、2・3度の深呼吸をするぐらいのものに留めさせた。
心持ち鮮度の良い空気を体内に充満させると、自分の置かれている状況が、問題だらけの荒廃し切った学校に転校してきた生徒に置き換えられた。誰一人として信用出来ないながらも、様々なドラマ展開を経て、最終的にクラスの仲間からの絶大なる信頼を受け、生徒だけに止まらず教師を含め学校自体が改善・更正され、卒業式では卒業生代表の答辞を一任されるようになるという学園ドラマの主人公になったような情熱的な感情が込み上げた。それに伴い、アイドルの登竜門的存在だったこういったドラマのように自分がこのホステルでヒーロー的な存在になれるのでは? と悦に入り気味でプラス思考満開の空想を巡らせたが、「それは単に自分がこのホステル内で留年学生のように数々のホステル同級生が卒業していくのを見送っていくという長老的な存在になるだけだ」と思え即座に熱が冷めて行くのを感じ、そうなれば自分が卒業するときには、答辞どころか掃除が大変なぐらい窓枠やヒーターの上などに自分の私物が綺麗に並んでいるような気がし、自分が先程体内にしっかりと取り入れた筈の空気が喉元で淀んでなかなか身体の奥底に届かない状態に陥り、「このホステルにおいてアイドルのような人気があるのは専ら私の荷物であって、私本人では無い」という我乍ら的を射たコメントが奥底から湧き出した。
一切気持ちがリフレッシュされないまま、結局自分の荷物が心配になり急いで部屋に戻る。すると、長老がシャワー上りの濡れた身体を部屋に一人だけであることを良い事に、何処を隠す訳でなく大胆に拭いていた。私の存在に気付いてもその姿は変わらず、局部を曝け出しながら「何かあったのか?」と安っぽく訊いてきた。「いや、お前が部屋に居るから荷物が心配になって…」などと本音を言える筈が無い。内心慌てふためいていてもそれを決して表に出さず「忘れ物をしたんだ」と軽く答え、ロッカーを開け荷物に別状が無いか確める。自分の荷物に今の所異常が無いことを確認すると、長老の訝しげな視線に応えるように「これが私の忘れ物!」とわざとらしくアピールするかのようにリップクリームだけを取り出し、荷物をまたコインロッカーにしまう。そして、ロッカーの鍵を閉めた途端、お金が下に落ちていくチャリンという音を聞き、現時点での不条理さに気付き嘆いた。
「俺、今後何回こうして自分の持ち物に金払わなアカンねやろ?」

nob morley
吉本新喜劇で活躍中のお笑い芸人。日本では満開の桜が春を知らせてくれている日々。私の春は一体いつやってくるのでしょうか?

最終更新日 : [04/27]
▲PAGE TOP