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88「一人で暮らすということ〜episode 1〜」

photo極度の寂しがり屋の私が苦手とすること、それは『一人暮らし』である。とは云え、実は一人暮らしを始めた瞬間、自分が寂しがり屋であることを知ったのだ。
いつの間にか夫婦間が冷え切り、いがみ合いが耐えなくなった両親に対し、反抗期中に抱いた憎悪がいつまで経っても消えることなく心の奥底に溜まっていた私は、19歳の時、家から通学出来る距離ではあったが、実家を捨てる覚悟で一人暮らしを始めることを決意し、一人で不動産屋を回り大学から近くてなるべく安くて広い物件を探した。そして、新しい気持ちで住むには異様に古かったが、一人で暮らすには十分な程広く、大学の真裏で家賃が4万円(駐車場代込)というまるで夢のような物件を見付け即決した。
これからは誰の束縛も受けない自由な生活が送れるのだと思うと面倒臭い引越しの荷造り作業も自然と捗り、家を出る日が待ち遠しくて仕方無かった。そして引越し当日、中学を卒業すれば東京に行くと決めた息子を北海道から乗せて行ってくれるというトラック運転手に何度も頭を下げ、余裕の無い生活の中、何とか工面した2万円を封筒に入れ、御礼として渡した北の国からの田中邦衛に妙な影響を受けたのか、息子が一人暮らしを決めた本当の理由も知らず、おとんは親戚に無理を言って軽トラを借り、オカンと荷物と私と何故か姉を乗せ、京都から私の新しい住まいの在る奈良まで運転してくれた。オカンは私たちが荷物を運び込んでいる間、嫌な顔一つしないどころか、優しい表情を常に浮かべながら隅々まで丁寧に掃除をしてくれた。協力的な家族の働きに申し訳無さが芽生えそうになったが、そんな気持ちを少しでも抱けば自分の決断が間違いだと思ってしまうと恐れ、即座に根こそぎ毟り取り、「こいつらは引越し手伝いという極上の暇潰しが出来たことを逆に感謝しとるのだ」と無理に自分に思い込ませた。
そして大体の作業が終わり、疲労と空腹が同時に押し寄せ、皆で近くに食事をしに行くことになった。食事中は何一つ変わった様子は無かったが、店を出てアパートへ戻る道すがら、先頭を切って歩いていた私が背中に妙な違和感を感じ振り向くと、眼球が使い物にならなくなるのではないかと思う程の衝撃的な光景が目に飛び込んで来た。驚くべきことに、あれ程日々互いに嫌悪感剥き出しだったオカンとおとんが楽しそうに手を繋いで歩いていたのだ。今までそんな2人を幼少期を通しても見たことがなかっただけに、その衝撃は嘔吐感を覚える程であった。然し、彼らの息子としてその光景を、田中邦衛から渡された封筒に入った2枚の壱万円札が、ピン札なのに端っこに泥が付いていた為、運転手から純に「一生とっとけ!」と託されたように、一生の宝にするべくしっかり目に焼き付けた。
その後、私と荷物以外を乗せた愛に溢れた軽トラを見送ると、自ら望んだ状況の筈が、置いてけぼりにされたような空気が漂い、先程まで騒がしかったアパートの中が嘘のように静寂に包まれていて、自然と寂しさと同時に涙が込み上げてきたが、何があっても流してはならぬと誰も居ないのに必死に涙を隠した。(つづく)

nob morley
吉本新喜劇の芸人。昔は落語家。空前の落語ブームで、先日師匠に挨拶に行ったら「この世界に縁の無かったお前は悔やむかも知れんなぁ」と言われたらしい。

最終更新日 : [02/20]
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