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90「一人で暮らすということ〜episode 3〜」

photoお金を出して借りている空間にどう考えても自分以外誰も居ない筈なのに『ギぃー…ギぃー…』と木の階段が体重で軋む音をはっきりと立てながら一段一段ゆっくりと私の居る2階に向けて誰かが上がって来る。つい今し方まで居た両親が、忘れ物をして戻って来た訳でも、自分達の息子が、突然一人になったことで急性孤独感に襲われ”出所を心待ちに過ごしていたが、いざ勤めを終えて刑務所から出て来ると、意外にも身を切り刻む程の淋しさが常に付き纏い、気付けば高い位置からロープを垂らし自害を試みている“という『ショーシャンクの空に』チックな状況に直面しているのではないかと心配になり様子を見に帰って来た訳でも無い。
ならば、誰かが無断で部屋に上がり込んで来たことになるが、玄関のドアが開いた気配しなくば、施錠はきちんと抜かり無い。となると、此処に到着した時には既に誰かが家に潜伏していて、引越し作業中見事にその身を隠し、私が一人になったのを見計らい、命を狙いに…いや、それにしては階段の音が騒々し過ぎる。
別にこういう想像を繰り広げ、名探偵コナン気分で現状を楽しんでいる訳では無い。正直、背後から徐々に、そして確実に近付いてくる音の恐怖に飲み込まれ、生命維持に必要な呼吸すら忘れる程気絶一歩手前で、金縛りにあったかの如く身体が硬直、失禁秒読み3秒前であった。
とは言え、何としても階段の状況を確認せねばならぬ。然し、振り向こうにも恐怖が先立ち鞭打ち症の如く首が全く言う事を聞かない。それでも深呼吸を一発決め、家の中ながらに天を仰ぎ、肉体と精神を落ち着かせ振り向く準備を整えた。すると、天井の木の板の木目が人の顔に見え出し、その顔が不気味にも笑っているように見えてきて、その忌まわしい顔が天井の形状から端から端までズラーっと幾つも並んで見えた為、勝手に想像していた『この長屋のようなアパート=旧竹槍武器工場』疑惑が、「もしや、工場で働いていた人が空襲で死に、その怨念がこの天井に宿ったのでは…」と考えを巡らすことにより信憑性を増し、気付けば合掌し知る限りのお経を宗派関係無く何度も唱え怨念の成仏を祈り、今まで霊体験をしたことも無いのに、背後に迫り来るものが霊的なものだと確信していた。
除霊術を心得てる訳でも無いが、テレビか何かで大声が重要だと言っていたのを思い出し、恐怖で確実に渇いていく口の中からありったけの唾液を搾り出し、それを一気に飲み込み、後ろを振り向き叫ぼうとしたその時、『ダンっ!』と階段の最上段に全体重を預け飛び乗る大きな音が響いた。遂に何かが階段を上り終え、私の背後にまで来てしまった。大声を出す筈が、半ば死を覚悟したような弱々しい声で「誰や!」と発っすのがやっとで、涙目でゆっくりと後ろを振り向くと、どういうことか人影どころか何の姿も見当たらない。霊だから見えないのか、何が何だかさっぱり分からず、「一体何や?」と闇雲に言葉を発すると、「コラ! 階段は静かに上がりなさいっていつも言うてるやろっ!」と、隣の部屋から子供を叱る母親の声が…え? 隣の子供?
どんだけ壁薄いねんっ!(つづく)

nob morley
吉本新喜劇の芸人。昔は落語家。最近、何年振りかに両親と3人で泊り掛けでスキーへ…。今年、33才。親は喜んだが、息子の私は単純に虚しい気分に陥った。

最終更新日 : [03/27]
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