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105 「落語家として暮らし始めるということ」

photo私自身は家出のつもりで出て来ているから実家にはそう簡単には戻れない。家業の跡継ぎを私に…と考える父親に何としてでも諦めて貰う為には、2・3年会わない間にすっかり変わり果てた後戻り出来ない姿になって、父親が「息子は死んだのかも知れぬ」と思い始めたぐらいに突如実家に帰り、息子が生存していたことの喜びが胸に込み上げてくる中、今まで全く連絡をして来なかった息子に対しての怒りを交えながら「今まで何処で何をしとったんや!?」と質問形式で涙ながらに憤慨の気持ちを含めて訴えて来た時、ここぞとばかりに「心配掛けてごめん。実は俺、落語家に弟子入りして、今日までその修行しとったんや。親と連絡を取ると自分自身に甘えが出ると思って完全に遮断してた。で、今日、師匠から年季明けのお達しを受け一人前の落語家として認めて貰えることになったから、その報告をしに帰って来たんや」と胸を張って答え、”もぅ貴方の息子は別の世界で一人立ちしてしまいました“ということを指し示すのが最良の策だと考えた。
そんな透き通った未来を背に、師匠宅に弟子入りを懇願しに行き、師匠を選んだ理由を訊かれ混迷し、師匠の事を全く知りもしないのに『師匠の事が好きだから…』と婚約でも申し込むかのように答えてしまい、その突発的に出て来た何の脈略も無い自分の発言のフォローを渾身の力を振り絞り必死でし、恋愛で言うところの”一目惚れ“であることを困惑しながら伝え、何とか困難な状況を乗り越え事無きを得たかに見え、このまま順調に渾融するかの如く”弟子入り“へと向かって行くと思いきや、「ほんで、お前落語はどんだけ知ってんねん?」と師匠から訊かれた瞬間、「嗚呼、もぅ無理だぁ〜」という嘆きの叫びが身体の内部に昏鐘の如く木霊した。
ここまで何とか自分を落語通に見せようとしてきたが、私の落語に対する知識範囲をストレートに訊かれたら”着物を着て正座して一人でおもろい事を喋る“ぐらいしか思い付かない。もぅこうなったらどうなっても良い。ただ、今嘘をついても仕方無いと、正直に「全く知りません!」と真っ直ぐな目で伝えると、「嫁さん! ワシん所にエライ奴来よったわ!」と家族全員に届くように台所に向かって叫びを上げられた。
その師匠の叫呼は、自分に残された道はもぅこれしかないんだと窮地に追い込まれて出した『落語家になる』という決断が、『弟子にして貰えない』という実に情けない結果で終わるのだと純粋に思えるものだった。然し、「ワシも弟子にならしてくれ! て師匠に頼みに行った時、何も知らんかった」と少し過去を懐かしみ、口元に笑みを隠しながら言われた時、『何や、お前もかぇ!』という突っ込みと共に肩を組んで『なぁ、弟子にしてぇなぁ〜!』と友達にお菓子を買う金を貸してくれと頼む小学生のように甘えてしまいそうになったが、その衝動の全てを必死に抑えていると「分かった。弟子にしたる!」の待望の一言を師匠が発した。正座し続け痺れる足の痛みが喜びによって一瞬にして消えた。が、次の瞬間その消えた痛みが全身に落雷の如く響き渡った。
「その代わり、親を連れて来い!」

nob morley
吉本新喜劇所属のお笑い芸人。家にネット環境がない挙句に、携帯も壊れたらしい。彼との連絡手段は、電気屋のパソコンのみ…(編集部、困惑)。

最終更新日 : [11/20]
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