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106「落語家として暮らし始めるということ〜episode 2〜」

photo親に内緒でなろうとした落語家だったが、なる為には親を師匠に会わさなければならなくなり、完全になす術を失った。然し、ここまで来て「親を連れて来い!」の一言に怖気付き「それやったら弟子はいいですわ」なんて事は言えよう筈が無く、「分かりました」の一言を残して師匠宅を後にし、15分程歩いて最寄駅に着き、駅のホームのベンチに腰を下ろすともぅ二度と立ち上がれないのではないかという程全身の力が見事に抜けた。恐らく、腑抜けのような顔をしていたに違いない。乗るべき電車を何本見送ったことか、他人が電車に乗り込む度に不思議そうに私を見ているのが分かったが、そんなことどうでも良く、ただただ途方に暮れていた。
どうやってこの課題をこなしていくか、その悩みが直接的に胃袋に負担を掛けたが、どう思案しても『親に内緒で親を連れて行く方法』が浮かぶことは無く、ふと頭に過ぎった”背後から襲うように麻の袋か何かを被せ師匠宅に連れて行く“という斬新な作戦は、親がすっぽり入る大きさの袋を用意する方法が思い付かず断念するしかなく、友達の親を借りるという画期的な案も考慮に入れたが、そういう事を頼める友人に限って中学の時に借りたCDをまだ返していなかったりしたので、これ以上何かを貸してとは頼めなかった。
結局何の得策も無いまま、重い身体を引き摺る様に列車に乗り込み、京都の実家を目指すことにした。約2時間掛けて当分帰らないつもりで家出した筈の実家の前に立つと、足がすくんだ。今までこんなにも玄関の戸が開け難いことがあっただろうか、まぁそれは幾度となくあったのだが、普段なら軽々と開く木製扉がこの時ばかりは鉄製の大きな門のように感じられる程重く、ドアノブに手を掛けてもなかなか開けるに至らない、それもその筈である、鍵が掛かっていた。家族にしか分からない鍵置き場を見ると鍵があった。どうやら母が夕食の買い物に行っているようだ。久し振りに上がる実家は特に何かが変わっているということは無かった。ただ一つ違うところは、いつも散らかっていた私の部屋がいつ息子が帰って来ても大丈夫なようにと母が掃除をしてくれていたのか、多少の荷物置きにはなっていたものの綺麗に掃除が行き届いていたことであった。それを見た時、胸がギュッっと締め付けられる感じがしたが、それは別の理由に因るものだった。「何やアンタかいな!」背後からの母親の声である。
長らく見なかった息子が家に上がっていてもいつも通りの母は「ご飯食べるやろ?」と夕飯の確認をしてきた。多少の拍子抜けを感じたものの、この普段通りが妙に心地好かった。久々に家族揃っての夕食の時間、私の姿があることに少し驚いた父が数々言いたい事がある中「どないしたんや?」と質問形式の会話を選択してきた。この言葉を待ってましたとばかりに全てを打ち明け、「そしたら、親を連れて来いって事になって…」と言おうとすると、少なからずや複雑な心境なのか若干顔を強張らせながら、「良かったやないか! やりたい事が見つかって。ほな、その師匠に挨拶に行かなアカンな」と元来責任感の強い父は自分からそう言い出した。涙が出そうになった。 (つづく)

nob morley
吉本新喜劇所属のお笑い芸人。最近の円高事情で大損し、遂にちょっとしたバイトを始めたとのこと。何のバイトだろう…(編集部、再び困惑)。

最終更新日 : [11/21]
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