tomori nagamoto

Tomori NagamotoのLife Lessons

Lesson 2

"Pain is inevitable. Suffering is optional."
痛みは不可避だが、苦しみはその人次第である
― Haruki Murakami――

人生初のマラソン大会。

6月にトロントで行なわれた NIKE主催のハーフマラソンに出 場した。ランナーとしてはまだまだ、 玉石混淆でいえば石である僕だけれど も、無事に完走し、全体で5位という 成績のオマケまでもらった。

今年の3月から本格的に走りはじめ、 週に4日、多いときは6日のペースで 練習を重ねてきた。でも、実は日々の ジョギングにトライするのはこれで3 度目。1度目も2度目も挫折している。 いずれも友だちから誘われての、お付 き合いみたいなジョギングだったので、 忙しくなると自然に足が遠のいた。そ の頃の僕には走らなければいけない理 由も、その必要性も見当たらなかった のだ。

村上春樹さんは著書『走ることにつ いて語るときに僕の語ること』の中で この表題にある言葉を紹介している。 走っていて「ああ、きつい、もう駄目 だ」と思ったとする。肉体的に「きつ い」というのは避けようのない事実だ が、「もう駄目」かどうかはあくまで 本人の裁量に委ねられているというこ と。僕が再び走り始めたのは、この言 葉に出会ったことが大きい。 走ることよりもっと大事なことはた くさんあるじゃないか、という意見も ある。もちろんそうだ。走ることより も大事なことはたくさんあるし、それ でいいと思う。僕が走る理由、

それは ただ1つ、走ることよりも大事なこと のために走るのだ。決して走ることそ のものが目的ではない。たとえば僕は自分の職業を愛してい るし、誇りに思っている。だからそれ を出来るだけ長く続けたいと思うし、 良いパフォーマンスを持続させたいと 思う。歳を重ねれば、それなりに賢く なって、いろいろな経験を武器にして 進めるけれど、それでもやっぱり肉体 的な衰えからは逃げられない。徹夜は できなくなるし、なるべくエネルギー を節約して仕事に集中させないと若い 頃の仕事量がこなせなくなる。

僕がまだピカピカの新車だった頃、 日ごろの手入れなどしなくてもガンガ ン走れた。それこそ 24時 間 走 っ て い られた。しかし、どんな名車でも5年 や 10年 た つ と 定 期 的 な 車 検 や 調 整 が 必 要になるのと同じように、僕もまたメ ンテナンスが必要な年齢に達したのだ と思う。それをしておくかどうかでそ の後の10年、2 0年が違ってくるはずだ。 ポンコツになるかヴィンテージカーと して高値で取引されるようになるかの 分かれ道といってもいい。

だから僕は、再び走り始めることに した。20年後もまだトップギアで走れ るように。

[ 2010/07/02 ]

永本冬森   ながもと ともり

現代美術家。ニューヨーク、東京、トロントを拠点に活動中。アーティストとして美術展を開催するだけでなく、詩人として詩画集などを発表(今夏発売)。また、ピアニスト百々徹 (どどとおる)氏のプロモーションビデオなども手掛ける。『Now』誌の「ベスト・アーティスト」賞、『EYE』誌の「ベストビジュアル・アーティスト」賞などを受賞し、トロントにもそのファンは多い。


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