tomori nagamoto

Tomori NagamotoのLife Lessons

Lesson 4

"There ain't no devil, only God when he's drunk."

悪魔なんて最初からいやしない、ただ神様が酔っ払ってるだけだろう

― Tom Waits―

よーし!追いつめたぞ!
警察がワナを張り、報道陣が追いかける、TVには緊迫した場面が映し出されていた。これだけ大騒ぎしてるのだから、さぞ凶悪な犯人なのだろうと思えば…。
サルである。都心に出没した大型の猿が、警察との壮絶なチェイスを繰り広げていたのである。横にいた2歳になる甥っ子が、宇宙の神秘そのものの純粋な瞳で訊いた。「サルは悪ものなの?」うぅっ、僕は一瞬たじろぐ。アンパンマン学校によって社会を学んでいる最中の子どもたちには、警察=100%の善であり、警察に追われる者=100%の悪なのである。善と悪、すべてはその2つに分類されるのだ。
このサルだって動物園では喝采を浴び、カメラを向けられてきた人気者だろう。しかも食住完備、昼寝つき、軽くセレブである。それがどうだ、園を出たとたんに犯罪者扱い。警察に追われ、果ては麻酔という名のマグナム弾をケツにブチ込まれるのだから、サルの側に立ってみればこれほど不条理なことはない。僕はここで表題にあるトム・ウェイツの言葉を思い出した。
そう、悪魔なんて最初からいやしないのだ。一説によると悪魔は天使が堕落した姿だという。世の中にはもともと天使しかおらず、その中から堕落していったものが悪魔と呼ばれるようになったらしい。
人間に例えてみよう。生まれたばかりの赤ちゃんがまっ白な天使だとしたら、カエルの肛門を爆破し、妹のリカちゃん人形を虐殺する小学生の時点で、もはや小悪魔である。やがて校舎の窓ガラスを壊して歩く15の夜に小悪魔卒業の資格を手にし、ラブホの駐車場に自転車2ケツで乗り入れるハイスクールイヤーズになると、童貞と引きかえに大人の悪魔となる。女子では悪女という、いささか趣が異なる悪魔も出現。やがて就職難でどこでもいいと入社した金融会社で「お爺ちゃん、オレオレ!」から始まる電話を平然と一日に100件かけるような悪魔のエリートコースに乗り、はっと我に帰れば牢屋の中にいた、というオチである。
そこで悪魔は叫ぶだろう、「人間は平等であり、いかなる仕事にも上下はないはずです!僕は、ただひたすらオレオレ仕事に精を出していただけです!」と。実際にこんなことが平気で起こるのだ。塀の中と外を隔てている壁は、母親のネグリジェより薄い。
だから僕は、何が善で、何が悪かという判断を容易に下すことができない。例えそれが友だちの彼氏にも平気で手を出す助平な悪女であったとしても、もともとは天使なんだよな〜という残像を消し去ることができないのだ。

[ 2010/09/03 ]

永本冬森   ながもと ともり

現代美術家。ニューヨーク、東京、トロントを拠点に活動中。今年秋には詩人として詩画集を発表予定。

*TV出演のお知らせ*
カナダのTV局Bravoの人気リアリティ番組『Star Portrait』に出演します。詳細は以下ウェブサイトをご覧ください。
日 時:10月9日(土)20時
サイト:starportraits.ca


前の投稿

次の投稿

▲PAGE TOP