tomori nagamoto

Tomori NagamotoのLife Lessons

Lesson 9

"Eighty percent of success is showing up."

成功の80パーセントはその場に現れることによる

― Woody Allen ―

ある桜月の頃、僕はパートナーとともに大きな展覧会を企画していた。あっちから人を呼んだり、こっちから作品を持ってきたり、それは通常より何倍も大変なものだった。準備や基盤づくりに一年を費やしたが、予期せぬトラブルが連発して大幅に予定が遅れ、よって経費も膨み、気付けばポケットマネーも底をつくほどの莫大な赤字を抱えていた。このままでは中止という絶体絶命のピンチに、幸運にもある筋からスポンサーの話が舞い込んできた。誰もが知っているメジャー企業、特大ホームラン級のチャンスである。

こういう場合は役割分担としてパートナーが動くことになっていたので、彼はその日から国民の期待を一身に背負った五輪選手のように寝る間も惜しんでプレゼンの準備をはじめた。もしもメダルが努力の量によって与えられるなら、彼の頑張りは金メダルに値しただろう。僕は成功を確信した。

プレゼンの朝、ロビーには続々とスポンサーの重役たちが集まってきた。そこで突然、僕の携帯が不吉なメロディーを奏ではじめた。

救急車の中からパートナーが言った。ごめん、寝坊して、超特急で自転車を漕いでいたらいきなり路上の車のドアが開いてさ、激突して足が…足が折れたっぽいんだ。弱々しく謝罪する友に、僕は「大丈夫か!?こっちは何とかするから心配するな」と返すのが精一杯だった。なにしろ僕もパニックだ。プレゼンの内容など何も知らないのだから。

会議室に入り、いかめしい顔をした面々の前に立つ。そして僕は意を決して「お…お金をもらいにきました!」と言った。シンプル・イズ・ベストだ。一切の無駄を省いた究極のミニマリズム、もはや禅の世界である。そして、もうこれ以上喋ることはありませんといった体で、すとんと椅子に座った。10秒、20秒と空気がゼラチンのように固まっていく。嗚呼これでもう終わりだと思ったその瞬間、止まっていたストップウォッチが動き出すように、重役たちによる怒涛の質問攻撃がはじまった。それはテニスの松岡修造によるスパルタ特訓を連想させた。ボンボン飛んでくるキビシイ質問に、ただ夢中で打ち返しつづける一時間だった。

一週間後、スポンサーから手紙が届いた。そこには満額の小切手も同封されていた。

とにかく現場に行きなさい。現場に行ったらなんとかなる。いくら入念な準備をしても、その場に現れなかったらゼロだ。準備に時間を費やすくらいなら、そのぶん寝て、早めに現場に赴くほうがいい。これはウディ・アレンによる金言であると同時に、僕のトラウマ的教訓でもある。

[ 2011/02/04 ]

永本冬森   ながもと ともり

現代美術家。ニューヨーク、東京、トロントを拠点に活動中。アーティストとして美術展を開催するだけでなく、詩人として詩画集などを発表。また、ピアニスト百々徹 (どどとおる) 氏のプロモーションビデオなども手掛ける。『Now』誌の「ベスト・アーティスト」賞、『EYE』誌の「ベストビジュアル・アーティスト」賞などを受賞し、トロントにもそのファンは多い。

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