気分は生活習慣病

123「自宅に居座る流浪人?」

自分の成績が学校内で最低であったことを知ると、母が私に進学を勧めた学校が予備校であったことに何となく合点がいく。とは言え、専門学校や他の進路を真っ先に勧める感じでは無かったことからも、親からの『息子の大学進学』を希望する強き念が窺え、尚の事、高校卒業後は翌年の大学合格を目指すしか道は無く"浪人“とは本来「本籍地を離れ他国を流浪する者」のことであり、謂わば、全ての束縛から解き放たれた者のことであるのにも関わらず、高校という学び舎で3年間一緒に過ごした同級生達がキャンパスライフに思いを馳せ、希望に満ち溢れた新たな生活へと羽ばたいていく中、私は親のエゴに従うという束縛だらけの雁字搦め浪人生活を余儀無くされた。

母親が厳選した結果、私に勧めた両国予備校は、現在は閉校になり存在していないが、当時、全寮制で峻厳な規則を課す、「将来立派な医療人、立派な社会人になることを決意し、あらゆる艱難辛苦に耐えて受験勉強に励む者以外は、両国予備校に入学してはならない」という有名なフレーズがあったぐらいのスパルタ教育で有名な予備校であった。いくら高校の成績が振るわなかったにしても、寮に入れられ、毎朝6時から30分間程、スピーカーから流される軍歌調の校歌や寮歌などを聞きながら起床し、大勢の同じ境遇の者達と同じ食事を同じ時刻に摂り、テレビも見ることなく、フレーズの通り艱難辛苦に耐え、必ずや翌年の春には幸福に満ち溢れた大学生活があると信じ、ひたすら勉強に励む生活など、看守の指示に従い定時に起床し米7、麦3が主食のご飯を食べ、必ずやいつか此の場所から出られる時が来ると信じ、家具などの製作に励みながら過ごす刑務所の中と何ら変わらず、そんな辛苦に満ちた生活を送るのは真っ平だった。

何が両国や!

こんなもんただの"牢獄“やないか!

学校の成績が悪かった事が服役しなければならない程、罪深き事とは到底思えない。たとえ母が大事な時間を割いてその予備校を探し出したとしても関係無い。単純に"行ってたまるかそんなとこ!“である。立派な芸人になりたいのであって、立派な医療人になど一切興味が無い。芸人として立派な存在になれさえすれば、社会人として立派でなくても構わない。こんな心構えの人間は両国予備校どころか何処の予備校にも入学してはならない、よりも、浪人しても意味が無い。然し、そこは親にここまで面倒を見て貰った御礼も含めての"親の意向通りの大学入学“を何とか形だけでも果さねばならぬと心は既に固まっている。

かと言って、自分の中に芽生えた"行ってたまるかそんなとこ!“精神が思っていた以上に力強く根付いてしまった故、予備校までも意向に沿う訳にはいかない。

物凄く複雑な心境と状況を両手いっぱいに抱え込み悩んだ末、何処の予備校にも行かずに、自宅で、囚人の如く勉強するという、自宅浪人、所謂『宅浪』をすることに決め、本来家に居るのが嫌いな学校好き人間にとって一番辛い日々を送ることになった。まさか自宅が"地獄“になるとは…。

自宅と地獄、両国と牢獄程上手くないな。

[ 2009/08/07 ]

nob morley
吉本新喜劇所属のお笑い芸人。最近、自分でも驚く程読書好きになり、暇があれば本を読んでいます。然し、活字を見るとすぐ眠たくなってしまう。

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