気分は生活習慣病

128「虚構の世界の必死の穴埋め」

家庭の事情で学費が払えなくなった為に"行ってもいない“大学を辞めたと嘘をついた私は、やっとバイト先に自分の本当の姿(『浪人』であること)を伝えられた。とは云え、幸か不幸か嘘がバレなかったので、"嘘の経歴“はそのまま他人にとって私の"本当の過去“となり、それが私を苦しめることになった。

と云うよりも、嘘がバレなかった安堵感からか、嘘に真実味を与える為にひと工夫加えようと、瞬間的に機転を利かせて吐いたもう一つの嘘が、一番自分の首をきつく絞めることになった。

『少しでも学費の安い国公立を受け直そうと思いまして…』こんなこと言うんやなかった。何でこんなホラを吹いたんだろう。役立たずな我が脳を取り外したいとすら思った。どうせ機転を利かすなら、「僕には大学が向いてないみたいですわ」的な事をどうして言わなかったのか。

然し、これには脳ミソなりのきちんとした言い分があった。大学生である筈の人間が大学生でなくなり、その人間が大学自体を諦めるとなると、忽ちフリーター扱いされ、恐らく早朝2時間だけという特別待遇労働が難しくなり、1日の労働時間が基本労働時間の8時間となり得る。これでは、実質『浪人』である私は一体いつ勉学に勤しめば良いのかということになる。特別な待遇を受けている現状を何とか維持出来る最たる方法が、それを聞いた人間が感心、感動するぐらいのレベルでのハッタリをかますことであったのだ。

なるほど、良くやった我が脳よ! 我が脳の嘘、偽りを考える部分よ! そこまで見越してのハッタリに賛辞を贈ろうぞ!

ただ、何としても嘘を誠に変えなければならず、その皺寄せは津波の如く高く勢いのあるものであった。到底自分の学力で行ける筈も無い大学に、何の格好付けか、背伸びをしまくった状態で、通っていると嘘を吐いているにも関わらず、この期に及んで、それ以上の高みである『国公立を目指す』などと発言してしまうとは、正気の沙汰とは思えない。然し、クビを宣告される筈の店長から応援されてしまった以上、最終、学力的に行く所が無く「親の仕事が急に軌道に乗り出した!」などと言いながら、金の掛かる程度の良くない私学に進学するなど絶対出来ない。もぅ後には引けぬ。

私学と国公立の違いは、先ず受験科目の数にある。私学は学部によって入試科目が違うが、国公立の場合はセンター試験なるものがあり、基本的に英語・国語・数学・理科・社会の五教科全てを受験しなくてはならない。美術と体育以外何一つ得意科目の無い私にとって過酷な挑戦でしかない。

それからほぼ毎日、5時半起床、6時半から2時間バイト、バイト中に朝食済まし、9時から3時間勉強、12時から"いいとも“見ながら昼食、13時から6時間勉強、19時にニュース見ながら夕食、20時から3時間勉強、23時半就寝と、一日12時間みっちり勉強するスケジュールを立てそれをきっちりこなしていった。その甲斐あり、たった2か月で偏差値85という驚異的な東大合格レベルにまで上がった。この調子! と勢い付いた結果、入試直前の偏差値が『36』。…いや、あかんやん!

[ 2009/10/16 ]

nob morley
吉本新喜劇所属のお笑い芸人。コラムを始めた時は確かまだ28だった私も、此間34になりました。私、このコラムを6年ぐらいやってるってこと?

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