気分は生活習慣病

134「他を下げ自を上げ勝ちを取れ!」

ボクサーにとっての戦場が四角いリングなように、受験生にとっての戦場は試験会場である。試験会場には観客やセコンドは居ない。その代わり、肌を露わにしたセクシーなラウンドガールが…居る筈が無い。そんなものが居ようものなら気が散って、試験どころでは無くなる。では、受験生にとっての対戦相手は何か?

同じ試験会場に居る受験生か。いや違う。確かに彼等は事実ライバルではあるが、直接対決をする訳ではない。となれば、試験会場で不正が無いように監視しているレフェリーとでも言うべき試験官か。いやこれも違う。カンニングはおぞましい記憶[107話参照]を呼び戻すだけなので、二度としようとは思わない、"だから…“という訳ではなく、本来、試験官は試験が円滑に行えるようにする役割の人間であって、受験生にとって、重要度0であるべき無に近い存在なのだ。何よりも、土台、相手は人間ではない。

受験生の対戦相手、それは『問題用紙』である。ゴングとでも言うべきチャイムが鳴ると会場の受験生が一斉に"四角い机“に置かれた紙切れへの攻撃を始める。相手からの肉体的ダメージを与える攻撃は一切無い。然し、相手の身体(問題用紙)にはあらゆる趣向を凝らしたタトゥー(問い)が所狭しと書かれており、それが実際、相手の攻撃となり、ものに因ってはKO寸前まで追い込まれるぐらい物凄く精神的に大きなダメージを与える攻撃(難題)もある。1ラウンド毎に対戦相手(教科)が変わり、ラウンド時間はその対戦相手によって異なる。試合の結果は全て採点方式の判定で決まるが、当日には結果は分からず、後日掲示板等に貼り出される合格者の受験番号を見て、己の勝敗(合否)を確認する。

今でこそ落ち着き払ってこんな事が言えるが、当時の、冷静さを失っていた私にとって、敵は同じ会場の受験生だけであった。1年間必死に勉強しても成績はたかだか知れている。何なら、試験直前に受けた模試の結果は、1年間何もしていなかったのでは…と我が記憶を疑う程の悪しきもの。自分だけが唯一勉強していた受験生では無い。恐らく試験会場には自分よりも成績の良い人間の方が多いであろう。「こいつら全員、下痢か何かになったらええねん!」と真剣に願うような、邪念だらけの受験生であった私は、或ることに気が付いた。

『私の成績は悪いのではなくて、悪く見えているだけなのかも知れない。"周囲の成績が良過ぎるから私の成績が悪く見えるのだ“だから"周囲の成績が悪くなれば私の成績が逆に良く見えるようになる“のではないか』

受験生にとって重要な事、それは集中力。これが何かによって阻害されれば、自ずと成績は悪くなる。己の集中力を乱さず、周囲の集中力を散漫にする方法。そうや!ラウンドガールみたいな奴が試験会場に居たら気になって試験どころでは無い。よし、こうなったら『ラウンドガール作戦』や!

試験前日、殆どの受験生がラストスパートと意気込みながら参考書を必死に最終確認をしていたりする中、私は自宅の浴室で頭髪を全てバリカンで刈り落とし、カミソリで綺麗に剃毛していた。

[ 2010/01/22 ]

nob morley
吉本新喜劇所属のお笑い芸人。最近、風呂上りに健康法として水をかぶるようにしているが、急に寒くなり逆に風邪をひいた。1月31日に大阪でイベントします!

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