気分は生活習慣病

141「綺麗なお姉さんが好きですねん」

良いところの一つも無い愚鈍極まり無い少年Nは、たとえ世間的に見てそれが『悲劇』と嘆かれようとも、奇跡的に大学に合格し、必然的に入学し、大人の階段を徐々に上って行くことになる。
少年は周囲の目には確実に『不良』として映っていたが、19歳になっても、まだ女性を知らなかった。チャンスが一度も無かった訳でもない。実はチャンスは何度もあった。高校を卒業する少し前ぐらいに、同じ絵画教室で知り合った、2つ年上の女性と付き合うようになった。その女性が、彼の記憶がある中での―もしかすると、まだ記憶が曖昧な幼少期に親戚のおばさん達に可愛がりついでに幾度と無く経験させられているかも知れないが―生涯で2人目のキスをした相手であった。唇と唇を軽く合わせるのを何度も繰り返して行く内にどういう訳か身体が"火照る“という表現が正しいのか分からないが、熱くなり、その高まった温度を相手の身体に触れる事により冷まそうとするのか、至極自然に相手が重厚に隠し守っている―女性は常に上と下で2種類の下着を着けているが、その時はまだ上の―部分に手がのびて行き、相手の肉体の形状を確認するようにシンボルとも言うべき起伏に優しく触れ、手の平全体で柔肌を味わいながらその柔らかさを楽しみ、指先が頂上の突起した部分に差し掛かろうとすると、互いの体温が余計に熱を帯びて上昇し息遣いが荒くなっているのが分かると、彼女はそれ以上を求め進んで行く彼の手を握り進行を止め、濁った表情を浮かべそれ以上を極端に嫌がった。
彼女もまた、男性を知らなかったのだ。(安物の官能小説みたいな表現になってしまったことを心よりお詫び申し上げます)
当時、松下電工が売り出した脱毛器具のCMでの『きれいなおねえさんは好きですか?』というフレーズがちょっとした流行語となっており、"お姉さんが教えてあげる“系の成人向けのビデオや漫画が物凄く多く出回っていた。そんな時代の波に毒された彼は、"目を閉じれば瞼の裏で初代きれいなおねえさんの水野真紀が艶かしく誘うように踊る症候群“を患ってしまい、元来年下の女性の方が好みなのに、居ても立っても居られなくなり、アトリエ教室でお似合いカップルと冷やかされたのに便乗し、初めて年上の女性と付き合うことにした。そして、何も知らない彼に何でも知っているお姉さんが色んな事をいっぱいあの手この手で教えてくれるという夢のような展開になる筈だった。然し、彼女も同じく何にも知らないVirginだった。
期待に胸膨らませた夢のような展開は、単なる夢に終わった。
だからと言って、それが二人を別つ理由にはならなかった。この世に生を受けてから、常に目の前にある大人の世界への扉、今まで固く向こう側から鍵を掛けられていたその扉が、やっと向こう側から鍵を開けて貰えるかも知れない、そして扉の向こう側の世界に入ることが出来るかも知れないという期待から湧き出る彼の興奮が冷める事には繋がらなかったのだ。それどころか彼女にとってもそれが初めてなのだと思うと余計に嬉しく熱く興奮した。
(つづく)

[ 2010/05/07 ]

nob morley
吉本新喜劇所属のお笑い芸人。久々に締切に間に合ったノブモーリー。でもメールの最後には『すみません』と一言。人間性が出ていますね。by 編集部

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