気分は生活習慣病

144「綺麗なお姉さんとしたいですねん」

少年Nが年上女性に別れを告げるタイミングは幾度となくあった。
タマゴサンドが大好物の彼に大量のハムサンドを作って来た上に、飲み物として緑茶を笑顔で差し出した時、彼はこの女性と将来を分かち合うことは到底無理なことだと思った。そして、デート中、スキンシップを図るべく、欧米人がサラっとするのを真似て、彼が彼女の腰に回した手を下方にずらし、肉質を確認するように臀部をサラっと撫でると、彼女が恥らいを含んだ笑みを浮かべながらその手をグイっと掴み、力いっぱい捻り上げ、其処が雑踏の中であろうが何ら構う事無く、悪さをした彼の手を頭上に持ち上げた状態で「この人、痴漢ですっ!」と大声を張り上げた時、何という思い切ったノリを仕掛けてくるのだと、たじろがずには居られなかったが、群集の視線が一瞬にして彼に向けられたので"冗談ですよ!
ほら、2人は付き合ってるんです“と弁明する為に、持ち上げられた手を素早く下ろし、手を繋いで歩いているカップルが単にジャレただけだと思わせ、程無くしてその手を彼女の肩に回し、軽く抱き寄せるような格好で、群集に見せ付けるべく、欧米人がサラっとするのをより一層真似て、接吻を試みると、彼女は彼の顔面を両手で押し退け、力の限り「助けてぇ〜っ!」と叫び出した。その時、彼はこの女性には理想的な倫理観や道徳観や恋愛観が具わっていないのだと感じる以上に、今すぐ別れるのが賢明だと思った。
それでも、まだ心が通い合っているのなら…という一縷の望みを捨て切れず、迷い子が不安げに大人に道を訊くように、「俺のこと好き?」と尋ねると、彼女は顔を赤らめながら恥ずかしそうに「好き…」と答え、彼の安堵の表情を確認すると、必ず「…キュウリが」とか「…ミカンが」とか、邪魔な目的語を倒置法で付け加えた。この時彼は、この女性は自分のことをさほど好きではないのだと確信すると同時に、"早くやるだけやって別れよう!“と悪魔的な意識が心の中に湧き出すのを必死で抑えた。
彼が彼女に別れを告げなかったのは『まだやっていない』からだった。
彼はこれ以上その女性と付き合っていても単にストレスが溜まるだけであったし、時間の無駄であることを重々承知していた。にも関わらず、頑なに関係を絶とうとしなかったのは、どうしても"やりたかった“からである。それは別に必ずしも彼女と…というこだわりからではない。ただ、まだ未経験の人間が如何にして"それ“を経験するかを考えた時に、一番実現に至る可能性が高い対象者であったというだけだった。
彼は純粋に早く大人になりたかったのだ。
その為には、たとえ彼女が自分の事を好きでなくとも、そして、彼も彼女の事を余り好きでなくとも、ここは『気持ち』よりも『経験』を優先するしかなく、彼女の事が好きで仕方無い素振りを終始見せ付け、何とかして、そういう『行為』の行える場所へ誘うように試み、"分かり易い場所“だと敬遠されると思い「"卒業旅行“に2人で行かへん?」と声を掛けると、彼女は「イキたい!」と満面の笑みで答えた。
果してNは大人になれるのか…次号乞うご期待!

nob morley
吉本新喜劇所属のお笑い芸人。5日程前から左下半身に激痛が…。原因は何と、ズボンの右後ろポケットに入れてた財布。財布のせいで骨盤が徐々に歪んでいったらしい。

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