気分は生活習慣病

148「緑茶を飲もうぜハニー!」

世の中にミスマッチなものは数多く存在する。と言って、すっと思い付くものと云えば、『鰻と梅干し』ぐらいで…とは云え、単にこれは食い合わせの悪い(鰻の脂っこさと梅干しの強い酸味が刺激し合い、消化不良を起こすとされていた)物でしかなく、しかもこれは実際、酸味が脂の消化を助けるため、味覚の面も含めて相性の良い食材であったりするらしく…となれば、誰もが肯くミスマッチの例を挙げるのはなかなか難しい。厳粛な日本人である私からすれば寿司屋で鮨を食いながらコーラを飲んでいる欧米人を見ると味覚的にミスマッチ過ぎて気でもふれたのかと思えるが、彼等にとっては何らそれが変わった事ではなく、逆に「何を馬鹿なこと言ってんだよ。"鮨にはコーラ!
“これ常識! と、日本人のくせしてそんな事も知らないのか? と罵られそうなぐらいの自信に溢れている。
カナダでの生活が長くなるに連れ日本に対して懐古的になり、偶然、中華街で"緑茶“と書かれたペットボトルを見付けた。一瞬目を疑ったが、確かにそこには漢字で『緑茶』と表記されており、斜め下辺りにポップな感じの黄色い字で『with honey』と記載されていた。
『この緑茶は"愛しい人“と飲んでね!』
一瞬"お口の恋人ロッテ“に似た小粋なキャッチコピーに感じられたが、わざわざ緑茶にこんな主張を付けなくても…と、彼女の居ない独り身の人間として多少の不満を抱えたが、日本で見慣れたものが日本の大手ドラッグストアで買うのと同じぐらいの値段(通常価格よりもかなりお求めやすい価格)で売っていることが嬉しくて、喜び勇んで購入し、店を出るなりすぐさまキャップに手を掛け力強く捻り、本体とキャップをパキパキッと云う音と共に分離させ、眼前に現れた飲みくちに口を添え勢い良く喉の奥に届くように流し込んだ瞬間、緑茶である液体が舌に触れ味覚が働きその味を脳に伝達すると、肉体が拒絶反応を起こしたのか脊髄の反射神経をフルに活かし、流し込んだ勢いを遥かに上回る勢いで歩道から車道に向けて全身から血が吹き出るかの如く吐き出した。
得体の知れない物を口に含んだ感覚が残り続ける状態で、再度商品を確認した。確かに緑茶と書かれている。然し、その味は決して緑茶ではなかった。「何が『この緑茶は"愛しい人“と飲んでね!』じゃ!
こんなもん…」と、訝しみながら原材料の表示欄を見ると『蜂蜜』と書かれていた。
「あっ! なるほど、そういう事か。本来のハニーの意味で良かったんや。頭ん中で捻り過ぎたがな」と少し学習した気持ちになりながらも、「何を考えとんねん!
日本の文化を何やと思とんねん!
緑茶に何を混ぜとんねん!」とスえた臭い漂う中華街で叫びそうになった。然し、すぐ傍らを見ると母親が子どもに同じ物を飲ましており、子どもは吐き出す事無く、美味しそうにそれを飲み込み、満足気な表情を浮かべるのを見た時、あれ?
俺がおかしいの? と不安になってしまった。
私にとっては、それは決して愛しい人と飲めるような代物では無かった。
その前に愛しい人が居なかった。

[ 2010/08/20 ]

nob morley
nob morley吉本新喜劇所属のお笑い芸人。8月22日に初の単独イベントを京橋花月でやることになったので、帰国する予定のある方は是非、大阪の京橋までお越し下さいませ!

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