気分は生活習慣病

149「救世主『バイアグラ』」

海外で承認された薬が日本で承認されるまで平均4年程度かかるという。それがアメリカで開発され、『夢の薬』『画期的新薬』と騒がれた或る"錠剤“は、1年という極めて異例の短期間で厚生省の認可を受け、その2か月後に医療機関向けに日本で販売されるようになった。そして、その数か月後、その"錠剤“を泌尿器科の医師から処方された18(エイティーン)スーパーチェリーボーイの少年Nは、処方箋に『バイアグラ』と記載されているのを見て、一般発売後間も無くで人気のゲームソフトを購入した少年のような気分になり、元カノの呪いによって股間にぶら下げてしまったハンデキャップを克服できるという喜びに包まれた。
然し、その薬の値段を見て愕然とした。8錠で約2万円。処方箋が必要な薬品なのに保険は適用されない。何色とも表現しにくい淡い色をしたよく育った大豆一粒大ぐらいの錠剤が、一つ約2千3百円。
自分がなかなか出来ないでいる事を簡単に実現させるモノが2千3百円ぐらいで手に入る。そう考えれば確かに安い。然し、これから毎回、そういう行為を行なおうとする度にそれだけの経費が掛かると計算すると、例えば1年間毎日営んだとして、年間約80万の支出。それを今後一生、毎年支払い続けるとして、60歳まで現役を貫いたとすれば、約3千4百万。田舎に結構なグレードの家が建てられる。流石に18歳から60歳になるまで毎日欠かさず営むということは有り得ないから、これ程の金額になることはないにしても、自分の愛する女性との営みに毎回高級フランス料理の1番安いランチコースぐらいのお金が絡んでいると思うと、金額どうこうでなく、特定の相手が娼婦に思えてきてどうも空しくなってくる。とは云え、そんな悠長な事を言っていられない。早く、ナニを経験して一段階上の人間にならなくては…。その為には多少の出費は避けられない。然し、18歳の少年にとって2万円は大金、財布に軽く入っている額では無い。こうなれば1錠だけでも…、2千3百円ぐらいなら財布に入って…いなかった。診療費を払うと無一文になってしまった自分が情けなかったが、取り敢えず、処方箋だけを持って、その日は家に帰ることにした。
帰り道、処方箋の紙切れ1枚を、こんなに物を大事に扱ったことがないのではと思う程、大切に手に持ち、其処に確かに記載されているカタカナ5文字を何度も確認すると、それが地獄の淵から救ってくれる救世主の名前に見えてきた。
帰宅後、何の気無しにテレビを点けると、丁度都合を合わせたかのようなニュースが報じられていた。その内容は"バイアグラを服用して性行為を行なった直後に心停止に陥り死亡する事例が数件発生している“というものだった。それを聞いた瞬間テレビの前に無造作に置いた処方箋が自分を本当の地獄の淵へと突き落とす単なる殺人鬼に見え、北斗の拳のトキと思ったらアミバだった並みのショックを受け、生涯支出は2千3百円と実に安く上がるが、初体験後すぐに死んでしまったら何の意味も無い!
と、怒り一発、処方箋をゴミ箱に…何故か捨てられなかった。少年Nとは私のことです。

[ 2010/09/03 ]

nob morley
吉本新喜劇所属のお笑い芸人。お陰様で22日の単独イベントは立ち見が出るほどの大盛況で終わりました。ご来場頂いた方には心から感謝しております。

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