気分は生活習慣病

152「余分な一人が必要不可欠」

大縄跳びで回転する縄に足ではなく顔面を引っ掛けてしまい、呻き声を上げながら激痛にのた打ち回る私に向ける周囲の視線は意外に温かかった。今までクールを決め込み無口に振舞っていた人間の初めて聞いた声が文字表記不可能な苦痛に満ちた呻き声だったことが面白かったのか、「大丈夫?」と私に詰め寄るチームメイトの顔には笑みがこぼれていた。この状況で気の利いた一言でも言えば、周囲の興味をグッと惹くことが出来るのだが、顔面に纏わり付く痛みが邪魔して何一つ面白いことが思い付かない。それでも、恥ずかしさを紛らわす為に「誰?引っ掛かったん!」と一番ベタなボケを入れて「お前やがなっ!」と突っ込んで貰って、ある程度ええ空気にしといてから今後の展開を窺えばいいと「もぅ誰ぇ?引っ掛かったん!」と渾身の力を込めて言い放った。
すると、和やかな空気どころか、「え?何こいつ!本気で言ってるん?」的な凍て付くような寒気がその場を襲った。“やばい!やってもうた”と手の施しようの無い状況に自らを導いてしまい慌てる私に、「さっきのショックで頭おかしなったん違う?」という誰かの一言で、場は一気に和みを取り戻し、全てにおいて救われた。
群集に紛れた命の恩人を探すように救いの言葉の元を辿ると天使がそこに居た。私の心を回す縄と一緒に奪った挙句、その両方を掴んで離さないその天使は「あんなん初めて見たわ!」とお褒めの言葉を下さった。私は完全に『恋は盲目』の病に陥り、常に頭の中でJanis Ianの『Love Is Blind』という曲が流れていれば良かったのだが、この曲を全く知らなかった。
体育の授業は一週間に一度しかなく、専攻課程が違うので彼女に会える日は7日間で1日、しかも、たった50分だけしか無かった。授業内容は大縄跳びからバレーボールに変わり、中学時代バレー部に所属していたこともあり、大縄跳びでの失態を忘れさせるアピールチャンス到来!と意気込む私は、新たなチーム編成を教官が読み上げる間、ずっと天使を探していた。然し、何度周囲を見回しても見付けられない。前回の出席人数よりも少ない状況を考慮するとどうやら欠席しているようだ。
全てのやる気を完全に喪失し、何の為に一週間待ったのか分からぬ!と、苛立ちを胸の内に感じると、教官が私の名前を呼び、私の所属するチームが7人であることを発表した。6人制のバレーボールに7人て!と苛立ちを越えた憤りが心の縁に芽生えるのを感じながらチームに分かれると人数は丁度6人。「誰やねん?休んでる奴!」と声を上げると、教官に遅刻を謝った女性が指示を受けこっちに向かって来た。そして、私の背後に立ち「このチームやって!」「…何が、このチームやって、や!先ずみんなに“ごめん”と謝るのが筋ちゃうんか!」と振る向き様に怒りをぶつけようと背後の人物に目を向けると、視界が突如霞がかりボヤケ「また一緒や」の声で徐々にその中心部から視界の曇りが晴れて行く。それに従い露わになるその姿は…『天使』だった。怒りが一瞬にして喜びに変わり、まるで自分がチームリーダーとでも言うように「よろしく!」と誰にもしていない握手をした。

[ 2010/10/15 ]

nob morley
先日、後輩や先輩らに祝って貰い素敵な誕生日を迎えました。20代でカナダに行った私も今や30代半ば。年齢は高くなれど、生活水準は低いまま。嗚呼、悲しい現実。

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