気分は生活習慣病

155「雌鹿母鹿身近に仔鹿」

意中の女性に既に意中の人が居た。このショックはなかなか拭えず、自分が興味のある女性と両想いだと一瞬でも心躍らしてしまったことが余計に気持ちの落差を作ってしまったのか、己の内面に芽生え膨らみ出した性なる欲求が走り出し止まらなくなってしまったようで、気が付けば夜の奈良公園を徘徊し、日中は警戒心旺盛だが夜分は気を抜いたように眠る鹿の群れに近付きその中からなるべく綺麗な雌鹿を選別し襲おうとしていた。
昔、誰かから聞いた話を思い出したのだ。
【海賊は航海に出る際に船に羊を乗せる。そして、その羊は決まってメスである。当然『食』を最終目的としてのことだが、その目的が果たされる迄には哀しくも『性』という目的を果たされる。何でも雌羊の生殖器が人間の女性器に似ているらしい】
この話の真偽はどうでも良かった。羊と鹿の違いもどうでも良かった。全てが普通にどうでも良かった。ホタテマンで一世を風靡した安岡力也がかつて山中でのサバイバルゲームで、山羊を襲ったというエピソードを聞いてテレビの前で爆笑していた自分は其処には居ない。
余りのショックに魂が抜けたのか自我のコントロールが出来なくなった操縦不能の肉体は、雌鹿の寝込みを襲おうとしていた。じりじりと目的物との距離を詰めて行くに従い、やはり草食動物の警戒心は半端無く、群れを成した鹿達は次々に目覚め身を起こしてはその場をゆっくり立ち去って行く。然し、一頭だけが随分深い眠りに落ちているようで、大人しく寝そべったままでいる。“よし、コイツや!”と雌鹿の背後に飛び掛ろうとしたとき、視界に入った光景が肉体に魂を呼び戻した。自我を取り戻した私の前には小さな仔鹿を守るように身を横たえる母鹿の姿があった。
「俺は一体こんな所で何をしてるんや?」と自分の居場所と行いに疑問符を打ったとて、何の解決にもならない。ただ己を恥じ、"ある人"に彼氏がいるという現実を恨み憎むしかなかった。
翌日「もぅこうなったら諦めるしかない。気持ちを切り換えて新たな出会いに向けて頑張ろう!」と、新鮮な気持ちで登校した私の前に、待ち伏せしていたのか、友人の手を引き歩み寄って来る“あの人”の姿。「折角、忘れようとしてんのに邪魔すんなや!」と心の中で叫んでも、表情は明らかに誰が見ても『好きな人に会っている』と分かるぐらいに緩みきっており、緊張しながら“あの人”に自分から「どうしたん?」と優しく訊いていた。すると、思いも寄らぬ言葉が…「今日、私達二人でアンタん家に夜御飯食べに行っていい?」
地球の自転が止まったのかと思える程、状況がよく分からなかった。どういう事や?好きな人が向こうから家に御飯を食べに来たいと言うなんて想像もしなかった。当然断る理由が何一つ浮かばなかったので「麻婆豆腐しかないけど、それで良いなら…」と了承すると、「私、麻婆豆腐大好き!」と嬉しそうな表情を浮かべ、待ち合わせ場所と時間を言ってそそくさと校舎の中へと消えて行った。―いや、ホンマどういう事やねん!…てか、どうしよ?麻婆豆腐なんか作ったことなかったッ!

[ 2010/12/03 ]

nob morley
先日、ツイッターにビッツの読者の方からメッセージ頂きました。いやぁ〜何でもやってみるもんですね。皆さんも、ツイッターをする際はnobmorleyで検索掛けてみてください。

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