気分は生活習慣病

156「麻婆豆腐は授業中」

好意を寄せる人の自宅に個人的に食事に誘われたとしたら、恐らく食事だけでは済まない『何か』があると期待してしまう。でわ、一度諦めたにしろ、自分の好きな人が自分の家に友達とご飯を食べに来たいと急に言ってきたら…と考えても、当然『何か』あるのだろうけれど、その『何か』が全く解析出来ない。経験値の低さが問題なのか、『何か』の答えがどれ程思案しても分からない。それよりも麻婆豆腐の作り方が分からない。
スーパーの特売日に大量に買った豆腐を毎日醤油を掛けただけの冷奴で食していたが、流石に毎日となると味に飽きてきて、麻婆豆腐でもしようかなぁ〜という気持ちになる。然し、作り方を知らない以上、また今日も冷奴だろうなぁ〜と思っていたのに、好きな人を前にしたことによる緊張からか、「今日の料理は麻婆豆腐!」と血迷った献立を掲げてしまった。
好きな人が家に来るという事で異様なテンションになりそうな自分を必死で抑え、取り敢えず本屋に行き料理本を購入し、必要な食材等を確認、家に無いものをリストアップすると豚挽肉・青ねぎ・しょうが・ニンニク・豆板醤・オイスターソース・酒・中華スープの素・かたくり粉・ごま油…むっちゃ金掛かるやん!という思いを押し殺しながら、重いカゴをレジに置くと、バーコードを通し“ピッ”と鳴る度に表示されている金額が容赦無く上がっていく。タクシーでも表示額が上がって行く様を見て恐くなり目的地に辿り着く前に降りたりするのに、然し、こればっかりは途中下車する訳にいかない。最後の商品を通して出た金額が4千円程の支払いになった時、首輪をして繋ぎ止めていた犬が逃げ出すように抑えていた気持ちが解き放たれ、つい「高っ!」と結構な音量で言ってしまった。店員の痛い視線に耐えながら店を出て、荷物を持つ指にビニールが食い込んでいく痛みを感じながら帰宅し、鼻歌を歌いながら買った物を台所のテーブルに広げ、小声で独り言を呟きながら料理本を開き、色んな事を考えながら食材を切り出した。
もしかしたら自分はおちょくられてるだけで、友人と二人で私を馬鹿にして遊んでいるのかも知れない。でも、“あの人”に限ってそれはない!と何も知らないのに、一旦女神と崇めし女性を自分の中で悪者には出来ぬと、別の可能性を考える。考察を重ねると、最も無難な項目に行き着いた。あの横に居た友人を私に紹介しようとしているのだ。恐らく彼女が私の事を好きなのだ。“あの人”は優しき哉友人の恋愛のお手伝いをしようとしているのだ。失恋した翌日に向こうから新たな恋がやって来るとは実にツイていると、友人の容姿の上々さも手伝って、普通に喜べなくもなかったが、やはりそこには、一抹の切なさがあった。
自分の好きな人が自分の事を好きな人の恋愛のフォローをする。字面でもややこしさ満開なのに、胸中が穏やかな筈がない。皮肉過ぎる己の状況を憎み掛けたその時、目の前のフライパンから何とも美味しそうな匂いが漂い始めた。我ここに在らず状態で何とか麻婆豆腐を作り上げた。あとは“あの人”を待つだけ、と思った時、突然「はっ!」となった。授業に出るのを忘れてた。

[ 2010/12/17 ]

nob morley
コラムの締切があるのに歌舞伎の顔見世へ…。初の歌舞伎観劇に超感激!坂東玉三郎の美しさに心奪われました。しかも最前列!死ぬ迄に一度は見て下さい。玉三郎は素晴らしい!

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