気分は生活習慣病

158「魔・間・真・麻婆豆腐」

腕によりと一授業分の時間を掛けて作った人生初の『麻婆豆腐』が、一口も食されていない状態で、ある女性から「豆腐の水気を切ってない」と駄目出しを受け、出来上がる前に失敗作と見なされた時、己に惨めさを感じる以上に、その女性の聡明さに感銘を受けた。そして彼女が横に従える友達に目をやると、完全に状況を読み込めていないアホの顔をしていた為、付き合うとなればこの2択でわざわざ“アホ”の方を選択しなければならない運命を呪った。
何とかその場を取り繕おうと、忘れていた御飯がピッコロ大魔王を『魔封波』で封じ込めた時に使われたような炊飯器で炊き上がるまでに「何とかしてみるわ!」と、今更どうしようも無い屍のような物を目の前に、何の策も無いのに、何らかの前向きな発言でポジティブな男気だけを見せ付けようと張り切った。
すると、間髪を入れずに「いや、無理やって!最初にせなあかん大事なことしてへんねんから…」と、一瞬、私の生き方に対して言われているのかと錯覚してしまう程の辛辣な指摘をされた。「豆腐の水気切りってそんなに大事なことなん?そんなん本には…」と"麻婆豆腐"のページを広げると、下の方に『※』があり、その横に『豆腐はキッチンペーパーで包み、その上にまな板などを乗せ十分に水気を切ること』と記載されていて、「はっ!」とした時には既に遅く、私が麻婆豆腐を本を見ながら作ったことがバレてしまった。
「え?本見て作ったん?」と訊かれた時、最早、豆腐の水気切りの重要さなどどうでも良かった。自分が一所懸命出来る男ぶりをアピールしようとしていたのに、逆に本を見てもちゃんと作れない愚鈍人間なのだと知らしめてしまった。クスクスっと嘲笑に似た声を上げたその人は、フライパンの上で完成を待っている麻婆豆腐の半分を皿に取り分け、「取り敢えず、これは完成させよう!」とフライパンに残された半婆豆腐を指し、水溶き片栗粉を私に差し出した。
私の手によって一応完成された『魔婆豆腐』を皿に盛ると、その人は「ほな、御飯炊けるまであっちで待ってて!」と、まるで自分の家に私を招いたかのように指図し、台所からアホ面友人と私を追い出した。言われた通り居間で二人きりで待っている時、この時間が友人と私を引っ付ける為のその人の計らいなのだと気付いた。とは言え、話を切り出そうにも何からどう話して良いか分からない。取り敢えず、お互いの共通点の話題から切り込もうと「彼女はいつもあんな感じなん?」と訊こうとすると、「お待たせぇ〜!」と間を与えず片手に私の作った『魔婆豆腐』とは明らかに見栄えの違う『麻婆豆腐』を載せた皿を持って来るなり「食べ比べてみて!」と自信満々に言った。その味は正に『真婆豆腐』で、その人には“魔”を“真”に瞬時に変える力があることを知り、余計にその人への想いは強くなるばかりで、アホ面友人に気持ちを向けることが全く出来なくなった。それでも、その人は場を盛り上げる為に最大限の気を遣い彼氏彼女の話を持ち出し、友人が便所へ行くと、突如私に人差し指の先端を向け「私が一番気に入ってんのはアンタやで!」と言った。―いや、何この展開!?

[ 2011/01/21 ]

nob morley
いやぁ〜日本も随分の寒さで御座いまして、完治していないヘルニア部分が軋むように痛いので御座います。 カナダに滞在中にヘルニアの人、お話聞かせてください。

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