気分は生活習慣病

165 嘘下手人間と信じる上手人間

一度も来たことが無い場所に何の案内も無しに行ける筈がない。特にそれが個人宅であれば尚更だ。

奴"うじき"は全てを分かっていた。だからあの時「今からこっちに来て貰えますか?」とだけ言い、「場所は分かりますか?」的な確認をわざとしなかったのだ。恐らく、うじきは感付いていたのだ。自分の彼女が浮気をしているのではないかと疑いを掛け、彼女に訊いても「そんなことはしていない」の一点張りだから、「じゃあその男を呼んで話をしよう!」ということになったのだ。

いや、ちょっと待てよ。どうして浮気相手が私だと断定出来たのだ?
浮気をしていることは分かってもその相手を知り、また、連絡先まで手に入れることは容易ではない…じゃあどうやって?
もしかして、"あの人"が正直に言ってしまったのか?
いや、そんなアホなことをする人ではない。自分で自分の首を絞めるような、そんなことをする女性では決してない。じゃあ一体誰がどうやって…出ない答えを探し、脳だけが異常な回転を繰り返し続け妙な熱を体内に感じ始めた時、奴の一言でその熱は一気に冷めた。

「ここには以前来たことがありますね?」
敬語で話されるのが異様に怖い。完全に犯人のアリバイを突き詰める刑事のようであり、差し詰め私が容疑者であった。「こいつが帰って来て、ちょっと様子がおかしいから、何処に行ってたのか訊いたんです。そしたら、”友達の家に行ってた”と言うので、それが男性か女性かを訊くと"男”って言うもんですから…」

『いや、そこは女て言わなアカンやん!』胸の内での"あの人"に対するツッコミは今にも声に出してしまいそうだった。

「で、その男性がこの部屋に来たことがあるのかを訊くと、”ない”って言うので…」
『おおっ!そこはええぞ!』
「じゃあ、”ホンマか嘘か確認するからそいつの電話番号を教えろ!”って言うと、”電話機の上に貼ってる”って言うもんで…」
『いや、そとは教えたらアカンやん!…てか、電話機の上に貼るて、そらアカンわ!絶対いずれバレるやん!』と、胸中での嘆きが完全に顔に出てしまいそうになるのを必死で堪え、視線を横にやると電話機にセロテープで締麗に私の名前まで書いたメモ書きが貼ってあった。

『こいつアホやん!』と、胸の内とは云え、初めて、”あの人”の事を”こいつ”呼ばわりした上にアホ扱いしてしまった。開き直って全て正直に打ち明けようかと思ったが、そうしても何か良い展開が生じそうな気がしなかったので、私は「此問、偶然この辺を通った時に彼女が大きい荷物を持っていたので、運ぶのを手伝っただけで、部屋には上がってないですよ」と、取り敢えずそれらしい嘘をついた。然し、相手は私を簡単に毘にハメるような優れ者。こんな嘘すぐに見破られるに違い無い。”うじき”は薄っすらと嫌な笑みを浮かべながら何かを言い出そうとしたので、私は両手をついて謝る準備に入った。すると「そうやったんですか。それはお世話になりました」と、逆に向こうが私に頭を下げてきた。
――うそぉ〜ん?信じてるやん!

[ 2011/05/06 ]

nob morley
新聞の勧誘の来訪があり、普段なら事も無げに断るのだが、1か月だけ契約。そんなに金に余裕も無いのにい〜。勧誘の兄ちゃんの悲壮感漂った感じがどうしても無下に出来なかった。

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