気分は生活習慣病

166 スモーキング・プリンセス

「実はこいつも同じ事を言ってたんで…」
私の咄嗟についた嘘を、目の前の敵と思しき男が信じたのは、同じ嘘を別のタイミングで"あの人"(男の彼女)もついていたようで、そんな奇跡的な偶然が、私達の公けに出来ない関係をまだまだ二人だけのモノにし続けた。予期せぬ展開に、抜き掛けた刀を鞘にゆっくり戻すように、完全に逃げる準備をしていた腰を少しずつ落ち着かせていった。

結局、"うじき"と自ら名乗る男は、自分の知らぬ間にフィアンセに限りなく近いとされるガールフレンドの部屋に見ず知らずの男(私)が上がり込み、『ナニ』に至ろうと考えたが、行動に移せず接吻だけの用事を済ませて帰宅した事を知らないままで、"あの人"が思い付きでした、学校で唯一信頼を置く友人が私だという説明を、ティッシュの先端を水に浸けそれが全体に染み込んでいくぐらいのスピードで、徐々に信じ込んで行き、遂には"うじき"にとっても信頼を置ける人間へと格上げされ、私に色んな事を相談し始めた。

"あの人"の部屋が、さながら私の『何でも相談室』へと姿を変えたようで、「コイツと離れて暮らしているのが少し不安なんですが、どうすれば良いですか?」だの「俺は、コイツと真剣に結婚を考えています。やっぱり大学を卒業してからの方が良いですよね?」だの…実に積極的に、日々不安に感じるもの全てを取り敢えず私に解決して貰おうと、ここぞとばかりに相談してきた。

私はその相談の全てに対し、何とか嘘がバレないように細心の注意を払いながら、実に無難にそれでいて自分に何とか未来があるように私なりの見解を示していった。正直、胸の鼓動は尋常でない程荒げていた。一つ目の質問に「僕が近くで監視して居るのでご安心下さい!」と答え、二つ目の質問に「勿論、大学を卒業してからの方が良いと思います!」と答えた時の胸の内には『お前が卒業するまでに"あの人"は私のモノになるのだ!』と悪魔的考えが潜んでおり、その考えが完全に肉体を支配し始め、悪魔の化身と私自身が姿を変えようとした瞬間、次の質問がそれを止めた。

「コイツには絶対自分の夢を実現して欲しいと思ってますし、コイツなら必ずその夢を叶えられるって信じてますし、その為なら俺はどんな苦労をしてでも支えてやろうと思ってるんです。貴方が俺でもそうしますよね?」― は? 夢? そんなん知らんぞ!

"あの人"は歌手になりたいと真剣に思っていたようで、"うじき"はその為のボイストレーニング等の費用を親に借金をしてでも工面しようと考えていたのだ。私はそんな知りも考えもしない話を聞き、自分よりも"うじき"の方が"あの人"のことを好きなのでは…という自信を喪失させる不安定な気持ちになり、敗北宣言を上げそうになったが、それでも私は"あの人"のことを諦めぬ…と"うじき "の背後に佇んで先程まで延々とすすり泣いていた"あの人"に目をやると、私に背を向けるような格好で我関せずとあろうことか煙草を吸っていた。

「頑張って下さい!」という言葉を残し煙草の煙と一緒に部屋を出た私は恋の終わりに泣いていた。姫が喫煙者とは…。

[ 2011/05/20 ]

nob morley
先日、自前のノートパソコンから変な音が鳴り出したので、中を掃除してみたら全く動かなくなった。然し、その中身を数分日光浴させたら直った! 有難う! お天とさん!

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