のんびりアート

032「へんてこりん現象」

おかしな説明文を見つけた。それは、若い母親を読者対象にした雑誌の中の広告頁に小さく印刷されていたのだ。その短い文を見つけた時、僕はほくそえんだ。実をいうと、この手の「説明文」が、今に来るぞ出るぞ必要になるぞと、前から思っていたからなのだ。予想が"あたりー“となった訳である。

『この写真イメージは、加えたり削ったりの修正はしておりません』…こんなふうな説明書きが、ミルク系栄養ドリンクの広告の中に、キャッチフレーズやボディコピーとは別扱いで、小さく右下に出ていたのだ。1頁全面広告の写真は、健康そうな顔の若中年の女性(おばねえさん???アッ失礼しました!)が黒のタイトな服を着て立っている姿。ほとんど紙の白に近い背景の前なので容姿のシルエットがはっきりしている。つまり、ボディーラインをデジタル・フォトショップの技術で「修正はしておりません」というダメ押しの言葉なのだ。要するに、今の写真はデジタル修正するのがあたりまえ、常識までになってしまったのだった。写真を"本当のもの“とは見なくなってしまったのだ。…その"慣れ“がこわい気もするのですが…。

「見てごらんなさいよ、女性雑誌に載っている女優さん達の顔、モデルさん達の顔、スベスベツルツル、スベツルな金属の表面みたいで、ハイライトの部分なんかピカピカ光っているわヨ。シワなんかゼーンゼンないし毛穴だってないヨ。思うんだけれど…こんな写真ばかり見ていたら、いざ自分の顔にシワがやって来た時大変な事だろうネ。デジタル修正はできないし…。イメージと現実のギャップに、ワタシはだれ? だれは自分? 自分はワタシ? と、本来の"自分探し“からそれてしまい、外界ばかり気にする、競争心とねたみ心だけが強い"自分“に到達してしまうかもネ。少し大げさかもしれないけれど、それが心配だわサ。たかが写真のデジタル修正ぐらい…なんて甘く見てはこまるんヨ。便利機能の陰で起こるへんてこりんな現象がいろいろつながって、心の問題にまで影響が広がるのは簡単な事なんだから」…Mさんは抑えた調子で言った。

イラストの世界でもへんてこりんは起きている。ADもエディターも、そして広告主の人達も、誰も原画を目にする事なく仕事が進行していくのだ。締切日にエージェントでスキャンすれば原画は用済み、後はデジタルで流れてゆく。原画の持つ立体感は消え、平面たいらの感情で流れてゆく…。

へんてこりん現象が主流、常識になってしまった…。ン? でも、しかし、豊かなアートの畑で見れば、それらは世の中のうわべの流れの事ですネ。確かなのは、人間のいのちのあれもこれもごちゃごちゃの中で作品は作られ、そこから"良いもの“が生まれ、存在するという事のようです。

[ 2009/08/21 ]

日塔 富夫
トロント在住のイラストレーター。1971年渡加。Esquire、The Financial Post Magazine、Saturday Night、Toronto Lifeなどの表紙、挿絵を手がけたほか、映画『The Fly』『M Butterfly』にも作品提供する。

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