のんびりアート

039「一人で他人」

「ウッソー、あのマンガイラストとこの絵を、同じ人が描いたとは思えない…」

「ウン、マンガイラストは君のふんい気にピッタリでわかるけど、こっちの描きこみの絵は君らしくないネ」
「君の見かけからしてマンガイラストは納得できるけど、カラー絵の具のさわやかな色とリアルな描きこみイラスト、こっちは日本人の絵じゃないヨオこれは! 無国籍だョ。誰か陰にいるんじゃないの…」

アワワのワッ!! と、右に書いたのは、トロントにいる日本人のある人達が、印刷された、僕の仕事作品を見た時の最初の反応でした(みんながみんなではありませんが…)。

イラストレーターで仕事をするには、自分のスタイルを持つ事になる。僕の場合は、アクリル絵の具を使った描きこみを自分のものとした。そのスタイルで、ポスター、雑誌カバーとエディトリアル、広告など、英字のいろんな媒体に、仕事としてイラストを描き印刷されてきた訳だ。…が、ここでモンダイ(?)が起こる。つまり、僕の“仕事"の作品を見た人があまりいないのでした!! 反面、マンガの方はドッキリ知れ渡っていて(ビッツのイラストもマンガ調?)…。
でも、こんな事もあった。

ある日系2世の家を訪ねた時でした。その時、ミセスの気分が晴れていないのがわかりました。家には25才前後の2人の娘さんがいて、その娘さんそれぞれの、カナディアンのボーイフレンド2人も一緒でした。全員が初対面なので名前を言ってあいさつをすると、男友達の一人が「君って、きれいな色で細かく描きこんだイラストを雑誌に載せているトミオか?」と言うではありませんか! 「イエス」と答えると、彼は大喜びで話が弾み、ミセスの顔がサーッと晴れていったのでした(見てくれていた人に感謝でした)。

この辺でタイトルの事を書く。イミは一人で複数の他(人)になるという事…。仕事仲間で、二つの名前で二つのスタイルを描いている人がいる。「長谷川海太郎」が本名で、「林不忘」の名で『丹下左膳』を、「谷譲二」の名で『めりけんじゃっぷ』もの、「牧逸馬」の名で怪奇ものをと、沢山の小説を書いた作家がいる。一人で4人である。

『荘子』の中に、自分が蝶になった夢を見てヒラヒラと舞う自由さが楽しく、蝶が自分なのだと悟る話がある。それにあやかって、僕もビーバーになったりするのだけれど…、ビーバーって木をかじったり、ダムを造ったりと、ハードなライフなんですョ、荘子さん。ヒラヒラ、フラフラ自由にとはなかなかいきません。修行がまだ足りないのですね。これって。

[ 2010/03/19 ]

日塔 富夫
トロント在住のイラストレーター。Esquire、The Financial Post 、Saturday Night、Toronto Life などの表紙、挿絵を手がけたほか、映画『The Fly』『M Butterfly』に も作品提供する。サイトwww.tomionitto.com

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