のんびりアート

041「中国偶然二題」

中国、雲南省の北部、チベットとミャンマーの国境近くにシャングリラ(香格里拉)という街がある。海抜3270メートルぐらいに位置し空気が薄い。近くに揚子江の源流である金沙江が流れ、雪をかぶった連山も見える。街はチベット色が濃く、チベット様式の建物があちこちにあり、寺院も色あざやかに塗られている。
その日の「偶然」を呼び合うと言うのだろうか?・・・僕等はある集落を訪ねようとバスに乗った。だが着いたのはまったく見当違いの所。全員気落ちして帰り道を歩いていると、向こうに全身真っ白のヤク牛がいるではないか、元気づいた僕達はその道の方に曲がった。野生の目をしたヤク牛はみごとな大きさで、長い白い毛をフサフサと垂らしていた。そのヤク牛と別れ数歩過ぎたあたりの、道から奥まった所に小屋風の建物があった。そしてその引戸の狭い間から、なにか色あざやかな物が見えるではありませんか。僕達は何のためらいもなく色に近づいて行った。おどろいた。僕等が見た色は、まんだら絵の部分だったのだ。建物の中は仕事場になっており、1人の絵かきさんが制作中だった。彼は引戸を大きく開くと、僕等を快く迎えてくれていろいろ説明してくれた。壁には3×2メートル程の縦長の、複雑な絵柄のまんだら絵が数枚立てかけてあり、原色に近い強い色の重なりが刺激的である。粉絵の具をにかわと混ぜて使うらしく、大きなテーブルの上に色の器が沢山並んでいた。絵は寺院からの注文で、地獄極楽の物語り図である。まんだら絵の表現、構成には基本的なパターンがあり、動物、植物、人間世界が細かくていねい描かれている。そしてそれらは大きく想像力をかきたてる。・・・さて、今の世界は地獄だろうか、極楽だろうか?
スケッチブック、水彩パレット、水、それらをバッグに入れると、僕は北京の街に出た。歩き始めて間もなく、鼻水が流れ出るのが気になる。"北京の黄砂“は知っていたけれど、こうして実体験するとは予想外だった。ラストエンペラーの映画で見た故宮を見学、向かいの天安門広場中央を通り、めざす天壇公園に行く。この公園の中にある"祈年殿“を、僕はどうしてもスケッチしたかったのだ。門から続く長い樹木の中、公園中央に造られた高台の上に、それは気高くそびえていた。丸い屋根の三重の重なりが美しかった。僕はスケッチブックを地面に開くと作業にかかった。えんぴつラインを終え、水彩パレットを開いて色をつけようとした時、突然15秒ぐらいの雨が降ってきた。その雨は"茶色の雨“で真っ白な紙とパレットに跡をつけた。この「偶然」?そんな訳で、僕の祈年殿のスケッチには、今でも雨の跡がポツポツついている。日付は3月22日。

[ 2010/05/21 ]

日塔 富夫
Esquire、The Financial Post 、Saturday Night、Toronto Lifeなどの表紙、挿絵を手がけたほか、映画「The Fly」「M Butterfly」にも作品提供する。サイトwww.tomionitto.com

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