のんびりアート

043「メッセージ」

ワーッという大ぜいの人声がするので窓の下を見ると、沢山の人達が東に向って走っているではありませんか。と、その後を追うように大型バスが4台やって来て止まったかと思うと、中から完全装備に身を固めたポリスが黒いかぶと虫の大群のように出てきた。そして、走っていた人達を道の東西からサンドイッチに挟むと、そのままにらみ合いになった。どちらも手を出さない。しかし時間の経過にしたがい、挟まれてしまった人達の中から1人抜け、2人抜け、3人と離れていく。離れたとたん、彼らはプラスチックのベルトで両手を縛られる。ポリスの最前線のグループは何回も交代があり、後ろを固める部隊にはドリンクとサンドイッチが配られる。夜の10時頃から始まった"それ“は、午前1時過ぎには次々と、挟まれてしまった人達の中から離れる人が続き、最後の1人の手首にベルトが回った時、時計は2時を指していた。6月26日夜中の出来事だった。
トロントのダウンタウンが騒然とした空気に包まれていた時、G20の会議場から遠くない小さな公園に、静かに、しかし強いメッセージを持った彫刻が展示されていた。それはブロンズで出来た、大人の白熊の実物大の骨格でかなり大きかった(ROMのダイナソウの展示を思い出して下さい)。そして、そのリアルな骨格彫刻の足元にわずかに氷が残っていた…。
それを見た時点で、僕はアーティストの意図を完全に理解はしていなかった。数日後の新聞に掲載された写真を見た時、すべてがクリアになる。そして僕は知らない作者に賞賛の拍手を送った。その写真は2人の男の人が白熊のアイスカービングをしている作業中のもの。不透明な白い氷の白熊の彫刻内部にブロンズ製の骨格が潜んでおり、氷が解けるに従って姿を表わすという作品である。つまり、僕は氷が解けた後の彫刻を見た訳だったのだ。
新聞コピーによると、G20のリーダー達に気候温暖化の事実をしっかりと確認してもらうために制作した…と書いてあり、本当は会議場の入口に展示すべき作品だったのではないだろうか?白い氷の白熊が、時の経過と共に刻々と姿を変えて行き、やがて死の骨格の姿が表われる…。東洋思想の"無常“をも表現したような作品ではないか。そして、それがメッセージであり、怖い部分なのだが…氷の解ける度合いがとても速いみたいなのだ。…しかし、この優れものの作品、トロント中あげての騒々しさに圧倒されてしまい、あまり注目されなかったようだ…。
でも、いいものはいいのです。出来れば、いろんな街で展示され、いろんな国を巡回して、現在の地球が直面している"危機“をメッセージしてほしいものだ。

[ 2010/07/16 ]

日塔 富夫
トロント在住のイラストレーター。Esquire、The Financial Post 、Saturday Night、Toronto Lifeなどの表紙、挿絵を手がけたほか、映画「The Fly」「M Butterfly」にも作品提供する。サイトwww.tomionitto.com

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