のんびりアート

044「旅した原画」

「エーと、君のイラスト原画が、大小混ぜて数点ここにあり、これから届けたいのだけれど…」。3か月程前のある日、そんな電話が不意に入り、それから1時間と少しして、ロブさんが車でやって来た…。
そんなふうにして受けとった自分の原画、どれも、これも、懐かしい物ばかり。忘れていた(?)我が子(?)が、突然帰って来たみたいだった。ほとんどが1985年前後の作品で25年ぶりの再会である。大きいサイズが8点あり、トロント大学同窓会誌の表紙、スモールビジネス誌の表紙、トロントライフ誌の1頁目なども入っていた。
どうしてこんな事が起きたのか、ロブさんも僕もわからない。ロブさんの話によると、彼が仕事をしていた事務所がムーブする事になり、整理をしていたら出て来たらしい。たぶん、サンプルを見たいとか言われて誰かの所に原画を届け、その人が移動(?)、あるいは絵だけがあちこち移動し、忘れられ、最後はどこかで、眠っていたのでしょう。
原則として、イラストレーション原画は描いた人に所有権がある。それだから、ポスター、広告、出版物に掲載、使用された後はイラストレーターに返却される。クライアントは使用料としての金額を払う訳である。ごく、まれにではあるが、バイ・アートというのもあって、クライアントが仕事を気に入り、原画も欲しいと言った時は、プラスαでクライアントに渡る。そうは言っても、時々ルールを守らない(知らない?)人もいて、返って来なかった絵だって
…ママある。
本当を言うと、"原画が作者の所に返却される“システムはオールド・ファッションで、2005年頃からは、原画が手元を離れなくなった。つまり、コンピュータ・スキャンの発達で、みんなデジタルで流れ、原画は旅をしなくなってしまったのだ。迷子がなくなったかわりに、原画が取り持つ立体感が仕事から消えた。
2か月前頃、エージェントからの連絡で、3年前にやった仕事の絵が新しく使用されるという。その絵は、オリーブ油のボトルからオリーブの小枝と果実、それと根が伸びている絵柄、トマトソースのボトルがトマトの枝から成長している絵柄の2点で、クライアントはクリスティン・クッシングさん(テレビで料理番組を持っていて…3年前、打合わせにやって来た)。今回、絵はコンピュータの中に入っているので、僕は何もしなくてもよい。
25年ぶりに目の前に現われた旅した原画たち。僕がイラストレーターになって5年目ぐらいの作品で、仕事が好きで好きでたまらなかった頃の元気が見える。それらが印刷された時はうれしかった。本当にありがとう

[ 2010/08/20 ]

日塔 富夫
トロント在住のイラストレーター。Esquire、The Financial Post 、Saturday Night、Toronto Lifeなどの表紙、挿絵を手がけたほか、映画「The Fly」「M Butterfly」にも作品提供する。サイトwww.tomionitto.com

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