のんびりアート

046「キャンプの夜」

この頃はビックリする事ばかり。…道を歩いていて、老人が若者に劇場のありかを聞いているところに出くわした。ヤングはすかさずポケットからセルフォンを出し場所を探し出す。…君が生まれた所、日本の住所をここに書いてごらんと言われ、書いて渡すと、グーグルアースとかで、目の前のスクリーンに我が家がバッチリ出て来るではありませんか。… キャンプに行った夜、僕のフラッシュライトは普通の丸型ライト。アレ? むこうから四角形のライトが近づいて来る。光りも強い。ワッ! セルフォンがフラッシュライトにもなるんだア。
つい最近、オンタリオ州のマニツーリン・アイランドに行った。僕のエージェントのリユニオンみたいなもので、10人集まった。みんなコンピュータジェネレーションのグラフィックデザイナー。ビルさんの、小さなキャビンがある場所には電気も水道もなく、背後には深い森林が広がる。サンド・クレーンの飛ぶ姿が見え、シカが遠くを横切り、夜はコヨーテの遠吠えが聞こえてくる。
僕達は大きなキャンプファイヤーを燃やした。9月も末なのでモスキートがいなくてよい。さて食事。大きな、ふたのある鉄のなべに丸ごとのチキンと、ガーリック、ビーツ、ポテト、キャロット、オニオンを入れて火にうずめ、ふたの上にも炭火をのせての、オーブン焼きである(途中3回程ビールを少しずつ入れた)。
「ワタシ、妊娠しているのよ」ジェニィさんが言った。キャンプファイヤーの回りでチキンを食べていた全員は知っていた様子だが、僕はビックリした。でも、おいしいチキンを飲み込むと、なにもビックリする事はないのだと思いなおした。ジェニィさんとスティーブさんは6月に結婚したのだもの。そのスティーブさんも目の前でニコニコしている…。そのニコニコ顔を見たとたん、僕の頭の中に1枚の絵がらが浮かんで来た。そして言った。「オレ… 母乳のやり方を知っているよ」… みんなの口からワーッという声が出た。
真相はこうだ(ちょっと大げさですが…)。2年前、ガイドラインとしての、ブレストフィーディングのイラストを描いたのだ。クライアントはオンタリオ州。そのカラーの印刷物の裏面には、生まれて1〜2日目から6週目ぐらいまでの赤ん坊のミルクの量やおしっこの回数、うんちの量や色までチャートで説明されている… そんな事をみんなに話し、ジェニィさんにカラーコピーをとって渡す約束をした。
コンピュータ制御になってしまった世の中、デジタルが精神の中にもいずれ入って行くのだろうか? …人間のロボ化? ロボの人間化? コヨーテの声が長く尾をひく。愚かな人間よと言っているのだろうか? それとも、早くロボ化して宇宙に出よと言っているのだろうか?

[ 2010/10/15 ]

日塔 富夫
トロント在住のイラストレーター。Esquire、The Financial Post 、Saturday Night、Toronto Lifeなどの表紙、挿絵を手がけたほか、映画「The Fly」「M Butterfly」にも作品提供する。サイトwww.tomionitto.com

前の投稿

次の投稿

▲PAGE TOP