のんびりアート

050「これって反逆?」

 

ハーパーズという雑誌の2月号を本屋で見ていたら懐かしい4枚のポスターが出てきた。実はこの"懐かしい"という物言いには二通りの意味があるのでした…。@ポスターの絵柄のアーティストがノーマン・ロックウェルさんだという事A彼が描くような写実描写の絵は最近すっかり雑誌イラストレーションから消えてしまった事。

まず@から。ノーマン・ロックウェルさんの絵を初めて見たのはカナダにやって来て間もない頃で、なんと"カッコイイ"絵だなぁと思った事を覚えている。それは、ヨーロッパの絵とは感じが違っていた。市民生活のひとこまひとこまを数多く描いた彼の油絵には、若いアメリカの、希望、夢、豊かさなどが上品に表現されていて、本当に"アメリカっぽい"ふんい気が一杯なのだった。ハーパーズに掲載されていたポスターは1943年に制作された物で、言論の自由、信教の自由、欠乏からの自由、恐怖からの自由、の4点である。この4枚のポスターは"四つのフリーダム“と言われ大きく話題になった様だ。

次はAです。年代が変わると世の中も変わります。イラストレーションの世界もすっかり様子が変わりました。今のハヤリはマンガ絵です。いつ頃からか、世の中は便利さだけを追う様になった。出来るだけ簡単にシンプルに、複雑で難しいのは時代遅れと退けた。なんでも手軽に、すぐ結果が出る事を期待した。スイッチ、ポンの時代到来である。

アメリカン・イラストレーションという年鑑の分厚い本がある。十数年前までは載っているイラストレーションに色々の違ったスタイルがあっておもしろかったのだが、ここ数年の掲載されているスタイルはほとんどがマンガちっくの似た者同士だ。アイデアのひねりもなければラインのうまさも見られない。ハヤリと言ってしまえばそれまでだけれど、何か無気味な気もするのだった。

この事はアートスクールの中でも混乱している様子で、教師が、今のハヤリのマンガ絵を取り上げて「君のイラストは個性的でイイネ」などと言うらしく、ある程度デッサンが出来、絵の基本を習っている生徒はイヤになってしまうのだそうだ。でも、そんな事はおかまいなしにアートスクールは大人気、子どもの時からマンガ絵で育ち、美術大学でのマンガ絵で終わる…。この薄っぺらで空っぽな今のイラスト群は、もしかして、前の世代のがんばりに対するアンチ、反逆なのだろうか?

中国の故事に「邯鄲の歩・かんたんのほ」というのがある。燕(えん)の国の人が趙(ちょう)の都、邯鄲に行き歩き方を学ぼうとしたが学びとれず、故国の歩き方まで忘れたという事。他人、流行をまね様として、自分が持っていた技術までなくしてしまったという事。

[ 2011/02/18 ]

日塔 富夫
トロント在住のイラストレーター。Esquire、The Financial Post 、Saturday Night、Toronto Lifeなどの表紙、挿絵を手がけたほか、映画「The Fly」「M Butterfly」にも作品提供する。サイトwww.tomionitto.com

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