のんびりアート

052「へたな魔法使い」

 

Kさんの描く水彩画はプリミティブな野性がいっぱい。太陽、月、星、鷲やハミングバードの鳥、熊と狼と魚と川と森と花と…、それらが、アカデミズムの訓練は受けなかったであろう自由な感覚で描かれている。素朴な表現の中に何かを伝えたい気持ちが込められていて、中には怖さを感じる絵もあるのだった。数年前から彼の絵を、クイーンストリートの西にある小さなスペースで目にしていたのだ(時〜々、不規則に展示をやっていた)。

 その日、その小さなスペースにKさんの絵と本人を見つけた僕は中に入ると少しの間話をする事が出来た。Kさんはネイティブの人でオジブワだとの事。つまり、絵は彼の生活体験からのモチーフでいっぱいという訳なのだった。重い話もあったけれど、彼が仕事としてやったらしいある夏の植樹作業の話がおもしろかった。Kさんは自分の判断基準で木と木の間の間隔をとって植えたところ、後で白人の責任者に引き抜かれてしまった…。責任者側の考えは効率第一で、そんなに木と木の間をあけては土地の無駄使いになるから駄目だとの事。でもKさんは、ネイティブの伝統としてずっと受け継いで来た"森林の知恵"を知っている訳で、それが守れないのなら…と、あっさり仕事をやめてしまったらしい。"森林の知恵"とはこういう事なのだ。…木と木の間が狭いと、植えられた木しか育たない。木と木の間が広いと、その間にいろんな種類の灌木、植物が育ち、沢山の動物達がその中で生活できる。それは、あくまで自然のルールとリズムに添ったやり方なのだ。

 経済と効率を至上として追い求めた先の世として現在がある。自然はただ人間に利用されるだけで感謝も畏敬もされない。それどころか、近代の科学と技術の発達は"地球にツバする"ような段階にまで来てしまった気がする。原水爆に連なる原子核、バイオケミカルの遺伝子操作、コンピュータによる心の機械化など、それらの強力な魔法にかけられ、便利な世の中になったもんだと目をつむっている人ばかりで、背後に迫る危険に気がつかない。昔話や童話の中に、魔法をかけられてお姫様がカエルになったり、いたずら少年が岩にされてしまったりの話はあるけれど、それらは上手な魔法で、いつかは元の姿に戻れるのである。しかし、近代の科学と技術の魔法はへたな魔法で、一度出したら最後、元に戻れない危険な物なのだ。科学と技術に追いまくられ待ち伏せされ、カエルや岩になって休む事も出来ず機械人間になっていく人間…。

 そろそろ、便利さだけに頼るのをやめ、自然のリズムを回復する事だ。青空、海、大地、森林、動物、それらを科学技術から守る事だ。ネイティブのKさんの描く絵は、それらを声高に叫んでいるのだった。

[ 2011/04/15 ]

日塔 富夫
トロント在住のイラストレーター。Esquire、The Financial Post 、Saturday Night、Toronto Lifeなどの表紙、挿絵を手がけたほか、映画「The Fly」「M Butterfly」にも作品提供する。サイトwww.tomionitto.com

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