のんびりアート

054「ブッダ漬け」

 

「トミオ…、今回、東京を訪ねた時に行った展覧会のカタログ本を持っているのだけれど、それを読んで少し説明してくれないか?」。そして僕が手にした本は『平山郁夫・玄奘(げんじょう)三蔵院壁画』。Lさん夫妻は中国人。1月に国へ行った帰りに東京に寄り1週間滞在した。そんなある日、フト目に入って来た"玄奘三蔵"の文字に誘われ美術館に行ったらしい。… そこには少し訳がある…中国行きの数週間前、ミセスは『千里無雲』という本を読んだ。それは、1400年前頃に玄奘が、インドまでの、さらにインド国内を歩いた行程を、現代中国に生きる若い女性が追体験として歩いた記録本で、"玄奘"の名前が鮮明にミセスの頭に残っていた訳なのだった。僕が手にした『平山郁夫・玄奘三蔵壁画』は立派な本。画家が旅したシルクロード、アフガニスタン、パキスタン、そしてインドの遺跡や仏跡のスケッチ、絵、仏像が沢山掲載されている。白眉は、この展覧会の主題である、薬師寺に奉納した玄奘三蔵院の中の大壁画。雄大な風景画の連作で構成された大壁画は静寂に包まれていた。そして、その壁画を描く事になったいきさつや色々な物語りの解説が書いてあり、見終わって、このプロジェクトは画家にとってのライフワークだったのだなと気がついた…。

「トミオ…、『大唐西域記』という本を見つけ、君のために借りて来たのだけれど…」と、Lさん夫妻から渡された日本語本は分厚かった。この本は、629年から645年までの16年間を費やしてインドへ旅した玄奘が、自分の目で見た世界を克明に記した、玄奘その人、本人が書き記した紀行文、それを日本語に訳した本だった。読み進むうちに、僕は深みに引き込まれていった。… 唐の時代、中国での仏教に限界を感じ、求法のためにインドを目指した僧の玄奘は長安を発ち、密出国という形で中国を後にする。だが、旅は困難をきわめる。しかし強靭な彼の心はそれらを行として受けとめ、沢山の人々の助けを得ながら旅を続ける。彼が綴った文は細微をきわめ、その国々、地域別の国柄、民族構成、宗教、伝説、考え方、物産、暮らしぶり…と多様で、学術文献の様である。玄奘は沢山の仏典を長安に持ち帰り、それらの中国語訳に後半生を費やす。

「トミオ…、『ブッダの世界』という本を君のため借りて来たが…」
と、次にLさん夫妻から受けとった日本語本、大判で厚く、本の題名通り、ブッダのすべて(?)がカラー写真と一緒に載っていた。インド古代仏教の流れ、仏像の変遷…無常の世界…。そこに発見したのは、人の世は争いの連続という事実だった。

3月、4月、5月と大変興味のある本を読んだ。とてもおもしろかった。偶然を次々と運んでくれたLさん夫妻に感謝。謝謝!!

[ 2011/06/17 ]

日塔 富夫
トロント在住のイラストレーター。Esquire、The Financial Post 、Saturday Night、Toronto Lifeなどの表紙、挿絵を手がけたほか、映画「The Fly」「M Butterfly」にも作品提供する。サイトwww.tomionitto.com

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