Satoko Yokohama
映画監督:横浜 聡子

進化する映画

期待の新人女性監督の“脳みそ”の中身

(2009年11月20日記事)

ともすると男性監督の勢いに圧倒されがちな映画業界。その中で他を圧倒する勢いで輝く女性監督、横浜聡子氏のメジャーデビュー作『ウルトラミラクルラブストーリー(英題…Bare Essence of Life)』が、秋に開催されたトロント国際映画祭のディスカバリー部門で上映された。本誌10月16日号でインタビューを掲載した日本映画監督協会理事長の崔洋一監督をして、今最も注目したい若手監督のひとりと言わしめた横浜監督が、今回は時間を割いてくださった。

彼女の作品の奇想天外さを引きずったまま横浜監督に会うと、その繊細で華奢なイメージに驚かされる。勝手な予想だが、初対面では大人し目の印象を与えることが多いだろう横浜監督。しかし、その“脳みそ”は誰しもがうなるほど進化し、大胆な発想を次々と生み出している。

「タイトルからラブストーリーだな…と思っていると『あれ?』と思うかもしれませんね。

(映画のアイディアは)最初は私が出身の青森県の地元に用があって帰った時に、散歩していて思いつきました。普段見慣れている風景で、海辺におんぼろの小屋が建っていたりとか、本当になんてことない風景だったんですが、映画にしてみて、映像にして撮ってみたらこれって面白いかも、って思ったんです。青森のお話をひとつ、フィクションを作れないかな、と思って考えたのが始まりでした。

あとは、あんまり社会的な枠に収まらない主人公のお話をやりたいなと…。前作の『ジャーマン+雨』の主人公も割りと自分の好き放題にやっちゃうような、自分勝手って言えば自分勝手な主人公だったんです。もう1回、そういう主人公で映画を作りたいなと思ってあのキャラクターを設定しました」

『ウルトラミラクルラブストーリー』の主人公、陽人(ようじん)は人と少し違った“脳みそ”を持って生まれてきた。体は大人になったが、心は小さな子どものまま。でも、彼の脳みそは壊れているのではなく、ただ人と少し違っているだけと教えられてきた。そんな彼が抱いた、ピュアに人を想う心がいくつものミラクルを巻き起こす。 「陽人役の松山さんは、個性の強い役柄をたくさん演じておられますが、その割りにはあまりイメージが固まっていない役者さんです。役者さんによっては何をやってもその役者さん(の色)になってしまうという方もいらっしゃって、それはそれでいいと思うんですが、松山さんはそうじゃない、珍しい役者さんだと思ったんです。陽人っていうキャラクターを演じるのは、難しいといえば難しいですよね。頭で考えて出来るようなキャラクターじゃないから…。でも、松山さんだったらどうにか面白いことをやってくれるんじゃないかな、っていう期待もあったし、可能性があると考えました。それに、(彼が)青森出身ということもありますね。

撮影の際も、だいたいこんな風にこの場所で止まって、この辺を通って…という指示をしただけで、あとは自由に動いて欲しいんです、ということを伝えただけです」

“陽人”は、生まれつきの障害のためかなり特別な人格を持って描かれているが、どこからヒントを得て出来上がったキャラクターなのだろうか。

「身近にそういう人がいたわけではありませんが、誰にでもああいう面って、あるんじゃないかな、と思います。子どものように大きな声で歌を歌ったり、自分の思ったことをすぐ口に出してしまったり。でも、そういうことを人前でやったら恥ずかしいっていう気持ちがあるから、みんなやれないだけじゃないのかな。私も羞恥心をなくせば、道路で歌を歌ったり、大声出したりしちゃうと思いますね」

これが初めての商業長編映画となる横浜監督。ストーリーの突飛さ、主人公の純粋さは、そのまま彼女の新鮮な才能を映し出しているようだ。しかし、横浜監督は「商業映画を作ることは怖いと思った」と語る。

「商業映画になると好き勝手が出来なくなるんじゃないかなと思ったからです。見る人に分かりやすいものを作らなきゃいけなくなって、本当に自分のやりたいことが出来なくなっちゃいそうだな、ってそういう不安がありましたね。見る人が圧倒的に多くなるので、多くの人に合わせた映画の作り方になっちゃうんじゃないかということ。

あとは、自分が一番経験が少ないこと。スタッフ、役者さんの中で、私が一番経験が浅いんですよ。そこで、みんなを引っ張っていけるのか、っていう不安が大きかったですね」

そう、横浜監督は映画畑を歩き続けてきたのではない。非常にユニークなキャリアを持った新人監督だ。

「もともと、どんな形でもいいから自分を表現したいなと思っていたんですが、その表現方法が分からなくて、普通に大学(国際文化学部)を卒業してとりあえず就職してOLになりました。だから、レールの上に乗っかったといえばそうですね。そういう生活に反動があって、OLをやったことで、『やっぱり自分は何かを作りたい』っていうことが逆に明確になりました。

映画を見るのがすごく好きだったんですが、どうやって作るのかは分からない。だから退職して映画の学校に入学しました。人に今までなかった価値観を与えるのはすごいことだな、と思います。映画ってそういうことができるんです」

今までなかった新しい価値観―。全編津軽弁で繰り広げられる会話も、方言って素敵だな、という新しい価値感を私達に与えてくれる。脳みそで考えてばかりの現代人に、そこから脱出してみよう、進化してみようと呼びかける。“横浜聡子”は映画の可能性を広げるだろう、これからが楽しみな新鋭監督だ。

(インタビュー/西尾 裕美)

Biography

よこはま さとこ

1978年青森県生まれ。大学卒業後、OL生活をするが退社し、02年に第6期映画美学校フィクション・コースに入学する。卒業制作の短編『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』が06年第2回CO2オープン・コンペ部門最優秀賞受賞。その際の助成金を元に長編1作目『ジャーマン+雨』を自主制作。同作は第3回CO2シネアスト大阪市長賞、第48回日本映画監督協会新人賞を受賞、自主制作映画としては異例の全国劇場公開となる。長編『ウルトラミラクルラブストーリー』は商業映画デビュー作。

 
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