Hitoshi Ariga

漫画家 有賀 ヒトシ

人気漫画家がゲーム少年に戻る時

海外に染み込む日本のポップカルチャー

(2010年09月17日記事)

アニメやゲームのお気に入りのキャラクターのコスプレをしたファンがトロントの街を闊歩する光景で知られる『FanExpo Canada』。8月27日から3日間にわたって開催されたこのイベントは、毎年約6万人が集まるポップカルチャーの大展示会だ。今年も各国からアニメやゲームのクリエーター、声優、俳優などの豪華なゲストが参加した『FanExpo Canada』に、日本から特別ゲストとして漫画家の有賀ヒトシさんが招かれた。

「昨日カナダに着きました。でも、イベントのあとは日本にとんぼ返りなんです。1日だけ観光させていただくんですが、こちらでちょっと仕事もして…。日本でも直前まで仕事をしていました(笑)」

『FanExpo Canada』に先立ってジャパンファウンデーション・トロントで開催されたイベントに有賀さんを訪ねた取材班に、彼は苦笑しながらこう話してくれた。

有賀さんの作品『英語版 ロックマン メガミックスVol.2(英題:Mega Man Megamix Vol.2)』の発売を記念して開催されたイベントには、急な開催アナウンスであったにも関わらず、多くのファンが詰めかけた。『ロックマン』は、ゲームソフトのタイトル、およびそのキャラクターで、第1作目は1987年12月にファミリーコンピュータ用に発売されている。有賀さんは、この『ロックマン』を主人公にしたオリジナル漫画作品を手掛けている。

「もともと、ゲームの攻略本イラストなどを、バイトでちょこちょこ描いていたんです。その縁でドット(ゲームキャラクターのイラストをドット絵にする仕事)を描くようになって、それから漫画家になりました。漫画家になったら今度は、ゲームの開発秘話みたいなものを作って欲しいと言われたんです。そのゲームが『ロックマン』だったんですよね。そこから、このオリジナル作品に繋がりました」

カナダでは(英語版としては)新発売となる『ロックマン メガミックスVol.2』だが、日本ではもう10年以上も前の作品であるという。

「自分の漫画が英語版になるということを想定していませんので、こうやって見ると、大変だっただろうな〜と思いますね(笑)」そう言いながら有賀さんは、今回発売に漕ぎ着けた漫画本のページをペラペラとめくった。

「ほら、このセリフ、日本語版では縦書きで"博士“って書いてあるところなんです。縦書きの吹き出しは英語版は使いにくいでしょうね。ここは英語も縦書きで"DOCTOR“ってなってる(笑)。こういうのが大変なんだよね。多少、台詞を変え(意訳)たり、台詞に合わせて吹き出しの形を変えていることもあるでしょうけど、できるだけそのまま翻訳してくれたんだな、って思います。ありがたいですね」

 

お話を伺ったジャパンファウンデーション・トロントのポップカルチャーコーナーに限らず、最近ではトロント市内の大型書店でも漫画コーナーを充実させてきている。そこでは、日本の漫画家の作品が並んでいることも珍しくない。

「(日本の漫画が海外の書店に並ぶことは)単純にうれしいですよね。僕に関して言えば、いろんなところで国を越えて受け入れられるということで、表現方法を間違えていなかったんだな、と思います。言葉が違っても感情だったり、流れだったりするのは変わらないですから」

しかし、文化の違いなどのせいで、特に海外のファンには有賀さんが意図していない方向に受け取られてしまうこともあるだろう。

「うん、そういうこともあるでしょうね。でも、(作品が)印刷されてしまった段階で手に取った人のものになってしまいますから。読んでくれる人には自由に解釈していただけたらいいと思います。変な受け取り方をされてしまって、『いや、そこはそういうことではなかったんだけど…』ということもありますが、そうやって言いたいところをぐっと堪えるのも仕事かな、と思いますよ」

趣味に偏りすぎないように、そして、自分の好きなものだけを描かないようにするのが漫画家として辛いことだと語る有賀さん。

 

Mega Man Megamix Vol.2

『ロックマン メガミックス』は、コミックボンボン増刊号(講談社)で連載されたコミックシリーズ。カプコンより発表されたゲームコンテンツ“ロックマンシリーズ"をベースとしている。英語タイトルとキャラクターネームは、ロックマン(Rockman)からメガマン(Megaman)に変更されている。これは、Rock(岩)という英単語を使用することにより起こり得る混乱を防ぐためという。カナダではwww.udonentertainment.com、もしくは最寄りの取り扱い書店で入手可能。

「やっぱり、(作品は)観る人に楽しんでもらわなきゃいけない。だから、好きなものだけを描くわけにいかないですよね。『ロックマン』も、好きなように書いていいよ、って言われたら、ロックマンが出てこない話になっちゃう(笑)。もちろん、"彼“のことも好きなんですが、何でも描いていいよ、って言われたらゲームの端っこをちょこちょこって歩いてる雑魚キャラクターが描きたいなと思います。でも、そういうマニアックなことはできないですよね。読者が読みたいものとのバランスを取らなきゃいけないですから。だから、求められているものと自分が書きたいものがマッチした時はすごく楽しいですね。まあ、マッチする確率はすごく低いですけど(笑)」

そう言いながら、有賀さんは手に持っていた英語版『Mega Man: Official Complete Works』のページに見入った。

「これの日本語版では、レイアウトやって、(クリエーターに)インタビューやって、文字起こしもやって…。ほら、このキャラなんですが、カプコン(ゲーム製造元)が資料として持っているはずの原画が紛失していたんです。だから、家にあった(ゲーム)マニュアルに載っていた絵を使いました。僕は『ロックマン』ファンですから、いろいろ持っているんですよ(笑)。そのイラストをスキャンして描き起こし、他のキャラクターと色合いを合わせる作業をしてね…」

この『オフィシャルコンプリートワークス』は、20年以上も続く『ロックマン』の世界を1冊にまとめたアート本で、いわば歴代キャラクターの図鑑。『ロックマン』ゲーム制作に関わったクリエーター達のコメント付きの豪華な一冊だ。本の制作過程を語る有賀さんは、本当に楽しそうな表情を浮かべる。

「昔から漫画家になりたいな、と思っていました。それで、そのままこの職に就くことができたので、ツマラナイんですが…。もっと寄り道してもよかったんじゃないかな、と思います。寄り道した方が表現の幅が広がるような気がするんです。そういう意味では、今思えば、ゲーム業界に寄り道したのは良かったことなのかもしれませんね…(そして次のページをめくる)。あ、このキャラクターもねぇ。大変だったんですよ。この本、監修ってあるけど、編集にして欲しいくらいですよ」

そう笑う有賀さんは、漫画家・有賀ヒトシではなく、ゲームを、そして『ロックマン』を心から楽しむ1人の少年に戻っていた。

〈インタビュー/西尾 裕美〉

Biography

ありが ひとし

漫画家。ゲームソフト『ロックマンシリーズ』をモチーフにした漫画作品『ロックマン メガミックス』で広く知られる。その他、オリジナル漫画は『THEビッグオー』『鉄板少女アカネ!!』『みみみ〜猫とロボと小説〜』など。また、ゲームのキャラクタードット(ドット絵)も担当し、『らんま1/2爆烈乱闘編』『ベアナックルU 死闘への鎮魂歌』などを手がける。近年は絵本『恐竜王国D-1めいろブック』なども制作中。 www.ancient.co.jp/~ariga

 
▲PAGE TOP