Isamu Hirabayashi

映画・CM 監督 平林 勇

先入観なく感じよう

自由自在の面白さに引き込まれる
短編映画の世界

(2011年03月04日記事)

世界各地の映画祭で話題となった日本の短編映画を、一挙に鑑賞できることで話題のトロント日本短編映画祭。毎年粒ぞろいの作品を上映しているこの映画祭、今年の目玉となるのは平林勇監督を特集した「モモ」プログラムだろう。上映会当日は実際に会場を訪れてくださるという平林監督に、今回はお話を伺った。

「今回上映される作品は、10年くらい前のものから本当に去年撮ったものまであるかと思います」

と「モモ」プログラムの上映作品について語る平林監督。実は、映画にはあまり興味がなかったというから面白い。

「最初は、映像の入り口としてCMから入ったんですよね。そこからもうちょっと長いものっていうのが短編映画。短編でまぁ30分くらいものを作ってみると、ちょっと長い作品(長編)を作るとどうなるのかな、という感じで今後は長編もやってみようかな、と思っています。
CMの仕事をするのは大好きで、すごく面白いんですよね。だから、その仕事は続けつつ、短編も続けつつ、長編も作れたらいいかなという感じですね」

そう、平林監督はコマーシャル映像ををメインに活躍している監督なのだ。リクルート社が発行している「じゃらん」という旅行誌をご存知だろうか。そのコマーシャルで人気の猫「にゃらん」のCMを手がけているのが平林監督だ。

「あの猫のCMを作ったときには"世の中と握手できたな"という感覚がありました。だから、CMとしては成功かな、と思ってますね。
普段はほとんどCMの仕事をしていて、目的だったり目標から逆算して作っていくので、(映画作品を作るときも)そういう癖が付いているみたいです。
コマーシャルっていうのは、ある企業からのこれを伝えたいってメッセージだったり、この商品を売って欲しいという目的がすごく明確なんです。でも、短編映画っていうのは"自分発信"のプロジェクトなんですよね。そこで、敢えて一つの映画祭を目的にして、そこに通る(上映作品として選ばれる)にはどうしたらいいか、というのを目標として決め、逆算して作品を作っていくということが多いです。多分、自分で作りたいものをただ作っていけばよいっていうのでは、性格的になかなかモチベーションが維持できないのだと思います」

平林監督が映画祭での上映を目指すには理由がある。

「僕が本当に、リアルに思うのは、映画祭があるから短編映画を作り続けることができるということです。これは、本当に素直な気持ちです。発表する場がなく、誰にも見てもらえないんだったら多分、(映画作品を)作ってなかったと思うんですよね。
ただ、日本では短編映画っていうのはすごくマイナーです。『ショートショート フィルムフェスティバル』という短編映画の映画祭が日本で10年ほど前から開催されていますが、東京国際映画祭にも日本アカデミー賞にも短編部門はないですし…。そのため、作品は海外の映画祭での上映を目指すということになってしまいます。日本の映画界だったり映画祭っていうのは、例えば、漫画や小説のような"物語発想"から評価の軸が来ているんですよね。でも、ヨーロッパなどの映画界っていうのは物語ではなく絵画だったり彫刻だったり、そういう"美術の発想"から発生して映像になった、という評価の軸が確固としてあると思います。そんな理由で、(海外の映画祭には)面白さを感じていますね」

確かに、短編映画の中でも物語性のないもの、アーティスティックな作品は鑑賞しても、良く分からない、つまり、楽しくない…と結論づけてしまうことは多々ある。

「うん、そうですね。映画は話が面白くないといけないっていう先入観みたいなものを、日本人は持っているのかもしれません。
でも、例えば、東大寺の仏像展みたいなものを国立博物館などでやりますよね。それは行列して見に行くんです。そこから日本人は何かを解釈しようと、読み取ろうとして行くんですよ。だから、そういう思考回路っていうのはちゃんと持っているんです。日本人がアーティスティックなものを受け入れられない人種っていうのではなく、多分、映画っていうものは"そういうもの"だっていう先入観が強すぎて、なかなか、ただシャガールの絵を見るように短編映画だったり長編のアーティスティックな映画を見てくれない、っていうところがあるような気がしますね」

映画『Conversation with Nature(自然との対話)』より

Toronto Japanese Short Film Festival 2011
日 時:3月17日(木)〜20日(日)
         ※平林勇監督特集の「モモ」プログラムは3月18日(金)、
              20日(日)19:00〜
場 所:Innis Townhall Theatre(2 Sussex Ave.)
入場料:〔1プログラム〕前売り$8、当日$11〔5プログラム〕前売り$30、当日$35
サイト:tjsff.com

そんな思いの中、06年に制作し、トロント日本短編映画祭で大賞を受賞したのが『ドロン』だ。

「それまでの作品が周りの人に見せても、全然面白くないって言われていたので(笑)、周りの人にウケル映画を作りたいなと思って、エンタメ100%で作ってみたらどうなるかな、っていう実験的な作品ですね。(残念ながら今回は『ドロン』は鑑賞できないが)他の作品では、映画祭で上映される『Shikasha』はいろんな映画祭に選ばれてある意味、集大成みたいな感じがしています。それに、『TEXTISM』は映画作品というよりも映像作品みたいなもので、いろんな人に評価していただいて短編を作り続けようかな、っていうモチベーションをもらったような作品で、凄く思い入れがあります」

話題にのぼった『TEXTISM』、実は、インタビューのためにいくつか拝見した短編映画の中で一番感銘を受けた作品だ。11分間にまとめられた3つの映像は、ネガティブなイメージのある『死』が非常に美しく表現されている。短編映画が苦手だという人にも是非、見て欲しい作品の一つだ。

「あれは、『死』に対する強い思い入れがあるということではなく、『死』ということが、人間が持っている一番強烈な、普遍的なものであるということから取り上げたんです。つまり、作品の強さを求めた結果、テーマとなったのが『死』だったということです。どうしても『死』と向き合わなきゃいけないというか、そこを入れていかないと作品が強くならないという気がしたので…」

キュートでキャッチーな「にゃらん」のコマーシャルから、美しい映像で繊細な表現を見せる映像作品まで、多彩な表現を持ち合わせる平林監督。作品の構想は豊富であとは、"作るだけ"だという。

「(構想は)もう、凄くありますね。1日あれば何かを思いつく…みたいな。あとは、お金と時間があれば月に一本でも作れるな、って感じがします(笑)」

短い時間の中にぎゅっと詰められた作者の想い、それをどう受け取り、どう解釈するかは観る人次第だ。そう考えると、非常に高い自由度を観客に与えてくれるのが短編映画なのかもしれない。そして映画祭は、多くの作品の中から心に残る一本に出会える絶好の機会となるだろう。

〈インタビュー/西尾 裕美〉

Biography

ひらばやし いさむ

1972年静岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業。グラフィックデザイナーを経て、現在CMディレクターとして活躍中。リクルート「じゃらん」のにゃらんCMなど多数を手がける。また、短編作品はベルリン、カンヌ、タイ、グラナダ、ロカルノ、釜山など、世界各地の映画祭で上映され、高い評価を受けている。06年にはトロント日本短編映画祭で『ドロン』(06)が上映され、フェスティバル・チョイス・アワードを受賞。
www.hirabayashiisamu.com

 
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